続続・次世代エコカー・本命は?(59)

2つ前の論考でのテスラのCEOイーロン・マスクの言い分は、「電力で直接モーターを回せば済むのに、わざわざその電力を使って水素を生産し、それでもって酸素と化学反応させるというのは「まったく馬鹿げている」と言うことであるが、これもよく考えてみれば論理的におかしいことに気が付く。



イーロン・マスクの頭の中を整理してみると、こんなことではないのかな。



・電気派 火力発電所(CO2有り)→二次電池電気→モーター→走行

・水素派 電気(CO2無し)電気分解→水素(蓄積)電気→モーター→走行燃料電池

・再生可能派 太陽光発電など→二次電池→電気→モーター→走行(これならCO2ゼロとなる)

・再生可能派 太陽光発電など→二次電池電気分解→水素(蓄積)→燃料電池も可能

 

再生可能エネルギーなど)・この過程では一般的にCO2の発生は殆どない。

 

{ }内を考慮に入れずに、折角電気があるのならわざわざ水など電気分解せずに、すぐにモーターを動かせばよい、と言うわけだ。

 

但し、「折角電気がある」のには訳があるのである。その訳をイーロン・マスクは考慮していない。

 

イーロン・マスクはコンセントがあれば既に電気がある訳だからその電気でモーターを回せばよい、と全く短絡的に考えているように見受けられる。

 

その電気はどこから来るのか、と言うことを全く考えていない。どこか幼稚的な発想ではないか。そういえば、先の論考には、そんなことも書かれている。

 

一般的にその電気は、石油や石炭と言う地下資源を燃やして(CO2を放出しながら)、電気を作り出しているのである。「パリ協定」では、このCO2を極力なくしたい、と言っているのである。このCO2をどのようにして無くしてゆくかが、今の時代の最大のテーマである。それを考えずして、電気があるならすぐにモーターを回せばよい、などとは全く短絡的と言うか白痴的ではないのかな。

 

「初めに電気ありき」などと(考えてはいないと思うが)考えること自体が、間違っている。CO2フリーの再生可能エネルギーでも、太陽光発電風力発電地熱発電水力発電などと言った、かなり大掛かりな仕組みの構築が必要なのである。しかもそうした電気は、変動も激しく蓄積が難しい。その電気をテスラの充電器に送電して、18650バッテリーに直接充電することは、それなりに厄介なのではないのかな。それを水素に変換して蓄積するのである。蓄積できれば必要な時に必要な量の電気を発生させることが出来る訳で、しかも運搬が可能となるのである。これって、便利でないかい!バッテリーに長時間充電する手間暇はいらない

 

まあそうは言っても使える水素ST.がない、と言うのも事実だ。だからFCVもなかなか売れない。テスラは加州だけでも、自前で急速充電施設を40も設置して自分たちのEVの充電の手助けをしている。トヨタももFCVを売りたければ(売らなければならないのであるが)、自前で水素ST.を作る必要があろう。

 

 

Joe & Santaro ジョー&三太郎の意見 違憲はイケンのじゃ http://joe3taro.com/?cat=23

投稿日: 2015-11-232015-11-23作成者 adminカテゴリー FCV, 科学技術
FCV
の見えない未来(4水素ステーションZEVクレジット

Fueling_Station

上の写真は Alternative Fueling Station Locator(代替燃料ステーション検索)サイトにて、Hydrogen(上、水素ステーション)と Electric(下、充電ステーション)を表示させたものである2015-11-15時点)。一般客が利用可能な水素ステーションは全米でわずか12カ所のみで、うちカリフォルニア州10カ所、ロサンジェルス周辺に8カ所が集中する。

 

(注)2017年データによると、上記数字は次のように増えている。

11,159→15,96228,030→42,665 、 12→35



7月の記事によると、ロス地区にはヒュンダイ・ツーソンFCV71台ほどリース中であり、そのユーザへのインタビューから水素ステーションのお寒い実情が分かる:

  • 8つのうち、ちゃんと営業してるのは3つだけ

  • 何ヶ月も休業してる水素ステーションばかりだ

  • 営業してる所は客がかち合い、連続充填できずに1時間も待たされる

  • 2015年には20カ所新設されると言ってたのに、1つも出来てない・・・

Miraiが米国でも発売されたのにこの整備状況とは、いったいやる気があるのだろうのか? 定期的にこの Locatorサイトをチェックしているが、水素ステーション5月に 13=> 12カ所に減ったまま動きがない。一方、充電ステーションは年間+3000カ所のペースで着実に増え続けている。

米国の現状だと、FCVではほとんどどこにも行けない。水素ステーション周囲の半径200km内とロス地区ぐらいに限られ、大陸横断など夢のまた夢。しかしEVならTesla Model Sぐらいの航続距離があれば、ルートは限られるし充電にとても時間は掛かるだろうが、すでに大陸横断は可能であり、or西海岸沿いの南北旅行は問題ない。

日本でも似たような状況にある。EV充電ステーションはすでにほぼ全国をカバーしている。さらに各 EVに一つ、所有者の駐車場にも充電器が設置してあるはず。
水素ステーションは米国よりはずっと頑張っている。東京、名古屋、大阪圏、北九州圏に集中し、前3地域間は往来可能だが、大阪−北九州間はちょっと厳しい。多く見えるが、実証設備や計画中を除くと、一般客が使える所は全国でまだ 22カ所のみである。

水素ステーションには初期投資 5億円(営業費用は 5千万円/年)も掛かるのに対し、急速充電ステーションは100万円ほど(営業費用はほぼゼロ)で済み、500倍の価格差からして、ステーション数の差は当たり前すぎる必然である。

東京都内で一般客が使えるのは、芝公園、九段(移動式)、練馬、杉並、八王子だけなので、都心のMirai芝公園に集中するだろう。Carトップの7月の記事によると実情は:
https://www.webcartop.jp/2015/07/11172

  • 常設のステーションで「(来客は)平均すると1日6台程度ですね」

  •  移動式ステーション(なんと平日の913時のみ営業!)では「せいぜい1日1台です」【注1

  • 芝公園の営業時間は平日 9-17時だけだったのが、7月から土曜午前営業も始めた

FCVEVに比べて航続距離が長く3分で充填できるのがメリットと言うが、それは水素ステーションがあればの仮定の話であって、現実にはごく限られた所にしかない。無理に設置しても、巨額の投資は全く無駄になるかも知れず、まともな経営者なら手を出せない。建設費1億円のガソリンスタンドがどんどん廃業している現状なのに、5億円の水素ステーションの経営が成り立つとは考え難い。

FCVCO2排出量はハイブリッド車より多いという実情では、設置する大義名分もない。将来の見込みもないのに税金を投入するのは止めてほしい、というのが率直な認識である。こういう疑問を技術展示会などの機会に、トヨタやホンダや経産省関係者にぶつけてもほとんど反論は返ってこず、「でも、カリフォルニア州ZEVクレジットがあるので・・・」で終わってしまう。

ZEVクレジットとは、販売された無公害車(Zero Emission Vehicle)に与えられる認定ポイントのようなもので、無公害さの程度に応じて一台当たりのクレジット数が設定されている。自動車会社は年間を通して、販売台数×一定比率の総クレジット数獲得を義務づけられ、達成できないと 1クレジット当たり罰金 5000ドルも課せられるので、強烈に厳しい規制である。クレジットが足りないときは、余っている他社から(交渉価格で)購入してもよい。

2017年度までのクレジットは複雑な表pdfp.15参照)で設定されていたが、2018年度から制度が大幅に変わる。ハイブリッド車は非対象となり、50マイル(80km以上の航続距離(Range)を持つFCVEVプラグインハイブリッド車だけに、次式pdfp.6参照)のクレジットが与えられる:

ZEV Credit (2018-) = 0.01×Range + 0.50 50 ≦ Range ≦ 350miles

 

Range

Credit
-2017

Credit
2018-

Tesla model S 70

248mile

3.0

2.98

Nissan Leaf (30kWh)

107mile*a

3.0

1.57

Toyota Mirai

312mile

9.0*1

3.62

代表的な3車のクレジット値は上表の通り(*12015までは 7クレジット)。
FCV
に妙に手厚いクレジット設定である。これまでハイブリッド車でクレジットを稼いできたトヨタが、FCVを売り出したくなる気持ちも分かる。ホンダはFit EVをリース販売しているものの、クレジット数が不足でテスラ社から購入していると報じられており、FCVを売りたい事情も分かる。

規制当局 California Air Resources Board(カリフォルニア大気資源委員会CARB)がFCVに妙に手厚いのは、ブッシュ政権時代にFCV開発を後押ししてきた当事者だったこともあるし、元来の組織目的が「大気汚染対策」であり、地球温暖化対策CO2排出削減)は二の次であったためだろう。つまり走行時の排ガスしか見てこなかったのである。しかしFCVではCO2排出は減らず(水素を化石燃料から作る限り)、エネルギーを多量に消費することが米国でも広く認識されており、当局の姿勢に対してこの記事のような批判も多く出ている。
https://www.greentechmedia.com/articles/read/should-california-reconsider-its-policy-support-for-fuel-cell-vehicles 英語のため詳しくは読んでいないが、2014.7.10付けの記事なのでいささか古い。

日米ともに政策に支えられて走り始めたFCVであるが、この先どうなるのだろうか? どのような政策であろうとも、水素の物理・化学的性質を変えることはできないのである。

 

*aNissan Leafの航続距離(107mile=171km)が、日本仕様(280kmJC08)に比べてひどく短い。 測定法の違いもあるが、定義の違いが大きいと思われる。日本仕様は満充電の 30kWhを使い切った場合なのに対して、米国仕様は 20%を残して 24kWhを使った場合と思われる。電池を痛めないためには後者の使い方が好ましく、米国仕様のほうが現実的である。日産は当初、全放電での航続距離を謳っていたが、実用上の航続距離が短いとして訴訟を起こされ、仕様を変更した経緯がある。

 

【注1移動式ステーションとはhttp://www.nimohyss.com/25トン大型トラックに、2.5億円の水素供給設備を積んだもので、1時間にMirai 2台(ポンプ能力で制約)、最大5台まで水素を満充填できる。これが所定の場所まで毎日往復して、せいぜい11台、売り上げ 4千円ほどなのだから、コストとか全く度外視している。水素がいかに高くつくかを最も分かり易くデモンストレーションしていると言える。

http://joe3taro.com/?p=650  

 

 

まあこんな調子では、ZEV対策車であるFCVミライは加州でも売れないであろう。いくら加州でプリウスPHVを売っても、トヨタZEVクレジットを確保することは難しいのではないのかな。罰金を払わなければならないのであれば、自前で水素ステーションを作るくらいの度胸があってもよいのではないのかな。遅きに失しているのであるが、トヨタEVを開発しておく必要があった、と言うわけだ。

(続く)