世界の流れは、EV化(88)

ソニー・ホンダ「創造力」再起へタッグ EV主導権狙う

2022/3/5 11:30
日本経済新聞 電子版

電気自動車(EV)分野での提携を発表し握手するソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長(左)とホンダの三部敏宏社長(4日、東京都港区)

電気自動車(EV)分野での提携を発表し握手するソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長(左)とホンダの三部敏宏社長(4日、東京都港区) 

 

ソニーグループホンダが電気自動車(EV)の分野で提携した。本体から独立した共同出資会社を2022年中に設け、技術者が創造的に設計・開発できる自由な環境を整える。両社のEV戦略に漂う停滞感を打破し、技術や事業モデルの開発スピードを上げる。自動車産業100年に1度といわれる変革期を迎えるなか、米中のスタートアップ企業に対抗できるEV革新に「出島」から挑む。

 

人が近づくと座席の位置や室温をその人にあわせてあらかじめ調整する。好みの映像・音楽コンテンツがライブ会場にいるような臨場感で自動で流れる。行き先を告げるだけで目的地までの道が自動で案内される。気分が落ち込んでいるときはあえて遠回りして景観のよいコースを選ぶ――。

 

ソニーの吉田憲一郎会長兼社長はEVの未来の一つに「アダプタビリティー(一人ひとりの利用者に適応すること)」を挙げる。走行データなどを収集して、乗る人各自に最適な車内空間や移動体験を提供するという意味だ。

 

ソニーが発表したEVの試作車(1月、米ラスベガス)

ソニーが発表したEVの試作車(1月、米ラスベガス)

 

開発の軸がソフトウエアに移るなか、事業モデルも変化する。ホンダの三部敏宏社長は3日、部品会社など400社超が参加するオンラインで開かれた取引総会で「EVは(売り切りから)カーリング(継続課金)事業になる」と繰り返していた。

 

革新出遅れに危機感

 

イノベーションは辺境で生まれる」といわれる。パソコンメーカーだった米アップルが、通話が主体だった携帯電話を再発明してコンピューティング機能を備えるスマートフォンを生み出し、「ディスラプター(破壊者)」となった歴史が象徴する。自動車もガソリン車からEVへ急速にシフトするなか、イノベーションの端境期にある。

 

21年夏に始まった両社の提携協議が短期間で結実したのは、モビリティー時代の革新に出遅れることへの危機感が背景にある。ホンダの三部社長は「車業界の変革の主役は異業種や失敗を恐れない新興企業に移っている」と言い切る。

 

米テスラはEVの世界販売が100万台に迫り、ソフトウエアの追加・更新など課金サービスで稼ぐ仕組みを作りあげた。EVでは稼げないと自動車業界でいわれるなか、2112月期の連結純利益は前の期比7.7倍の551900万ドル(約6300億円)、売上高営業利益率12.1%で、トヨタ自動車223月期の通期予想(9.5%)を上回る。

両社がEV新会社を「出島」として独立させた狙いは、「異業種同士の化学反応を起こす」(三部社長)ことにある。新会社で開発したソフトやサービスを2社以外も使えるようにするなど、「オープン化」戦略をとりやすくなる。25年に第1弾の車種を投入した後は、新たな提携先も呼び込み、ソフトやサービスの開発力を一層高め、モビリティー向けサービス基盤で業界標準を狙う。

 

ホンダ自体のEV戦略とは一線を画す新しい価 値を狙う」。三部社長は4日の会見で、新会社がホンダ本体のEV事業と別物であると強調した。 

 

ホンダのEVシフト、「笛吹けど踊らず」

 

三部社長は214月の就任直後、40年に新車販売での脱エンジンを宣言し、日本車メーカーで最も早くEVシフトにカジを切った。詳細な計画まで煮詰めず、高い目標をまず掲げた。あるホンダ幹部は「40年と明言したのは、技術者の奮起を促すためだ」と話す。

 

ただ、三部社長の描くスピード感でEVシフトは進んでいない。2110月、事実上の社長直轄組織である「電動事業推進室」を設けてEV対応を担わせた。別のホンダ幹部は「三部社長は社内のEV化への動きの遅さに歯がゆさを感じている」と直轄化の理由を解説する。さらに224月からは同室を「事業開発本部」とし、四輪事業本部や二輪事業本部と同格にまで格上げさせ、全社的な電動化の司令塔に据える。

 

三部社長は「ソニーとの提携でできた技術やサービスをホンダが取り込む可能性はある」と話す。出島を通じて、ホンダの技術者を揺さぶりつつ、EV戦略の停滞感を打破したい考えだ。

 

ソニーにとってホンダは、EVの事業化を実現するための最後のピースとなる。201月に試作車を発表して2年が過ぎ、センサー、通信技術、エンタメなど「進化に貢献できる技術が見えてきた」(吉田社長)という半面、量産技術などの課題に直面していた。

 

EV開発を主導する川西泉常務は「車の製造は設計開発と結びつきが強く、製造だけ分離しようとしても簡単にはいかない」と語る。ホンダと組めば、量産委託と共同開発を一石二鳥で実現できる。

 

ソニー役員は「ホンダとは斬新さや挑戦を好む点が似ている。社風が近いから、組めばスピード感が生まれる」と期待する。吉田社長は21年末から三部社長との会談を重ねるなかで、「ホンダとは馬が合う」と周囲に話していた。

(続く)