カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(96)

車台(プラットホーム)にモーターや電池などを載せて走行できる状態にまで車体を組み立てた後、残りの工程を車が自走して移動する。コンベヤーが不要となり、活用できる工場のスペースが広がる。設備の配置を変えやすくなり、投資も抑えられるようになる。 

 

元町工場(愛知県豊田市では生産するEVが組み立て工程から検査工程までの間を無人運転で移動する技術を一部で実用化した。量産に必要な準備期間を短くし、生産工程の改良も手早くできる。中嶋氏は「工場の景色を変える」と語る。 

 

 

テスラ、EVのものづくり革新で先行      

 

EVシフトを契機にしたものづくり変革で先行するのは米テスラだ。ギガキャストと同様の技術を「メガキャスティング」として実用化し、20年に主力EV「モデルY」の後部の車体部品で採用した。その後に前部にも採用を広げ、従来の171個の鉄板部品を2個の巨大アルミ部品に置き換えた。 

 

ゴールドマン・サックスの調査でテスラのEVの原価は21年に17年比で半分に下がったとされる。メガキャスティングはその原動力になった。テスラの1台当たりの純利益は111万2000円とトヨタの約4.8倍だ。 

 

メガキャスティングの適用範囲は今後、さらに巨大化する可能性もある。テスラに製造装置を供給する中国の工作機械大手・力勁科技集団LKテクノロジー・ホールディングス、香港)の幹部は「ボディーの下側や上側をそれぞれまるごと成型すれば、EV車体のコストをさらに大きく下げられる」との構想を話す。 

 

アーサー・ディ・リトルジャパンの鈴木裕人パートナーは「EVになると部品点数が減るため、車台を単純化しやすくなり巨大な一体成型部品を使いやすくなっている」と分析する。製造装置メーカーの参入も相次ぐ。スイスのビューラー社や日本のUBEマシナリー(山口県宇部市)が大型製造装置を開発した。 

 

テスラのメガキャスティング活用はEVのものづくり革新の一端にすぎない。まるでパソコンやスマートフォンといったデジタル製品のようにEVを生産する新手法「アンボックストプロセス」の構想を3月に披露した。 

 

車両を6個のモジュール(複合部品)に分割し、それぞれを生産した後に最後に一体化する。従来は小さな鋼板を多く溶接しながら車台を造り、その後にラインで内装部品を搭載していく流れで、ラインは長くなり、時間がかかっていた。 

 

BYDは電池一体型の車台でコスト削減 

 

テスラとEVで覇を競う中国・比亜迪(BYD)も電池を内製する独自の強みを生かしたものづくりを磨いている。電池やモーターなど電動化部品をひとまとめに制御する「e―プラットホーム3.0」を開発した。 

 

特徴は電池を車台の構造部材として活用する点で、車体の部材を省いてコストを下げる。EVの中核部品をほぼ内製するBYDだからこそ造れる電池一体型の車台だ。 

 

 


トヨタのEV専門組織「
BEVファクトリー」の加藤プレジデントは、BYDとの合弁会社で最高技術責任者を務めた経験がある    

 

自動車産業の後発のテスラやBYDは、未来のあるべき姿から解決策を探る「バックキャスト」の発想でEVの変革に挑む。対するトヨタトヨタ生産方式カイゼンに代表されるように徹底的に無駄を省く積み上げ型の手法が強みだ。 

 

慣習や常識にとらわれない新たな競合にトヨタが対抗するには、意識改革がカギとなる。トヨタが5月に新設したBEVファクトリーは、EVの開発と生産、事業展開まで一貫して担う。内燃機関を手掛ける既存の組織と切り離した 

 

トヨタの佐藤恒治社長は4月の就任直後のインタビューで「EVに適した構造の改革や改善は必要」と語った。「継承と進化」を掲げる新体制の実行力が試される。 

(続く)