番外編・プリウス急加速問題(117)

注目ポイント④
採用した蓄電池の種類と充電方式


SIM-WIL」が搭載する蓄電池はパナソニック社製で、一般的にパソコン用電池と称され

る「18650」(直径18mmx高さ65mm)の円筒形リチウムイオン二次電池だ。パナソニック

社が同電池単体のセルを、温度管理等のバッテリーマネージメントシステムを含むモジュ

ール化し、そのモジュールをSIM-Driveが車輌床面に1層として空冷の電池パック化した。


 電池容量は35.1kWh。「18650」の使用本数は今回、情報開示されなかった。なお、同電

池を採用している米ベンチャーテスラロードスターが電池容量53kWhで搭載するパ

ナソニック社製の電池セル(単体)は合計6831本、それを621本づつ11個のモジュール化

している。それを基準に考えると、「SIM-WIL」では4000本強の「18650」が必要となる。

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交流100V、200Vから直流に変換し、CHA de MO方式で充電する、SIM-Driveオリジナルの持ち運び可能な充電装置。
Photo by Kenji Momota

 また、「SIM-LEI」では、東芝製のリチウムイオン二次電池SCiBを使用している。

今回、「18650」を採用してことについて、前出の同車の車輌開発統括本部部長の眞貝氏

は「現時点では(電池セルの)購入コストや性能について一長一短がある。そのなかで弊

社は様々な事例を紹介している段階」という見解を示した。つまり、量産化に移行した場

合、自動車メーカーなどの製造者が、使用する蓄電池の種類を選ぶ可能性が高い。

なお、「SIM-WIL」のインバータについて眞貝氏は「(同社内製ではなく)外部からの購入品

である」と語った。


 また充電方式については同社は今回、直流急速充電の「CHA de MO」方式を採用し

た。充電時間は直流充電で満充電まで3時間、200Vの交流充電で同12時間とした。また

今回、小型で持ち運びが可能なオリジナル充電器も発表した。これは、交流100V/200V

からCHA de MOの直流方式に変換する装置だ。


 本連載でも紹介(※)したように最近、欧米メーカーが「CHA de Mo」を差し置いて、直流

・交流双方の充電コネクターを一体化したコンボコネクタの世界標準化を推進する動き

が目立つ。こうした現状については「コンボコネクターについては(現物が市場に出回って

いないこともあり)まだ十分に検討できていない。今後は非接触給電を含めて様々な充電

方式
の可能性があると考えている」(眞貝氏)という。


 この件について、清水氏は記者会見後半の質疑応答のなかで、筆者の質問に対してこう

答えた。「先行開発第3号のなかで住宅メーカーを含めた参加企業のなかで、さらには今

後数年をかけて、送配電などエネルギー供給のあり方全体を踏まえて、今後の充電方式

の標準化について考えていきたい」(清水氏)


EVベンチャーは生き残れるのか?
見えてきたその本質と、今なすべきこと


 以上見てきたように、SIM-Drive事業計画、事業目的は、フレキシブルであることが分

かる。創業当時から最近まで、自動車技術系メディアの間では、「SIM-Driveはインホイー

ルモータ
低床フラットフロアにこだわり過ぎて、今後の事業の広がりが分かりづらい」と

いう声があった。この意見に筆者も同感だ。


 しかし、今回発表された先行開発車事業第2号、同3号について、関係者と直接意見交換

した結果、同社がEVベンチャーとして現実的な路線を歩み始めたと感じた。それは、より

量産化が近い状態の技術開発を進めていく上で直面する様々な現実、さらには多くの

加企業からの要望
を受け入れていく過程で、必然的に形成されていく最大公約数的な事

業達成目標などが絡み合った結果ではないだろうか。同社には日本の代表するEVベンチ

ャーとして、さらなる飛躍を期待したい。


 ただし、いま、EVについてまだまだ多くの課題があることを、同社を含め自動車産業

全体で再認識する必要があると思う。それは、充電方式の標準化、リチウムイオン二次

電池のコスト
など技術論だけではない。最大の課題は、世界市場において現時点で「EV

明確な市場性が見えてこない」ということだ。


連載第104回「電気自動車の充電方式標準化で世界大戦争勃発! 牙をむく欧米メーカーvs迎え撃つ日産・三菱連合軍 トヨタは援護射撃するのか、しないのか? 」
(2012.4.2,NO.92参照のこと)


 それはいつの時点で見えてくるのだろうか。欧米勢が急速充電器をコンボコネクターでデ

ファクトスタンダード化した時なのか? それとも、日本が官民一体となって国家戦略とし

て「CHA de MO」の世界標準化を実現した時なのか? あるいは急激な原油高による超ガ

ソリン価格高時代が到来した時なのか?電気自動車の充電方式標準化で世界大戦争

勃発! 牙をむく欧米メーカーvs迎え撃つ日産・三菱連合軍 トヨタは援護射撃するのか、

しないのか?


 最近、日米欧のEVベンチャー各社を取材していると、どの企業もEV本格普及期に向か

う階段の“中二階の踊り場”にいるような雰囲気がある。そうした“待ちの時間”に財務的な

体力を消耗し切ってしまう企業も多い。そのなかで、“ニセモノEVベンチャー”は自然淘汰

されていく。


 EVベンチャーにいま必要なことは、各社独自の基礎技術をジックリと蓄積することで

ある。または、事業のゴールを新規株式上場であると割り切り、徹底的な合理的経営戦略

を推し進めることである。少し前に言われていたような「EVはコンポーネンツビジネスな

ので、他業種からでも参入し易い」などという、第三次EVブーム初期のお題目は、もう通用

しない。

http://diamond.jp/articles/-/16942

  
 

電気自動車としての市場は、どうもまだはっきりとした姿はない。まだ海のものとも山のもの

ともわからない、と言った状況のようだ。全体として電気自動車は、まだまだ詰めなければ

ならない技術的な問題が山積している。


まず第1が、(リチウムイオン)2次電池のコストだ。簡単に言ってしまえば概念上一ケタ

か二ケタ程高すぎる状態にある。リチウムイオン2次電池(これだけが電池とは限らない

が)は、まだ発展途上にある技術なのであろう。そのうちに一皮も二皮もむける時が来るこ

とであろうが、それは近い将来とも思えない。


そして第2が電気自動車航続距離だ。電池を沢山積めばそれなりに航続距離は伸び

るのだが、その分コストが極端に上がってしまう。これは2次電池との関係が深い。先ず

は、この二つが解決しなければ、電気自動車の発展は頭打ちとなろう。


第3が
充電方式の開発である。現在日本では「CHA de Mo」方式が標準化されてい

るが、欧米ではコンボコネクタを世界標準にしようと企んでいる。この標準化の問題もさ

ることながら、急速充電方式でも30分から3時間も掛かるようでは、機動性にかける。これ

もバッテリーとの関係である。バッテリーとの関係でもっとスムースに充電できる方式が開

発されれば、それが世界標準となろう。


第4が
モーターの性能向上である。もっとも効率的だと思われている「インホイールモ

ーター
」でも、量産型の電気自動車などにはいまだに採用されていないが、トヨタが開発し

ている次期「スープラには、FRにインホイールモーターを採用する四輪駆動のハイブリッ

ド仕様らしい。「インホイールモーター」では、ばね下重量が大きくなり乗り心地に問題があ

ると言われているが、実際にはそれほどのことは無さそうだ。問題は、コストと小型化であ

ろう。それにレアアースの確保の問題もある。モーターはバッテリーと並んで、電気自動車

の心臓部である。バッテリーとモーターは電気自動車の今後を制するパーツなのである。


第5が
電気自動車構造である。構造と言っても、どんなバッテリーを使って、どこにど

んな形で搭載するのか、は技術者の頭を悩ます問題である。しかも軽くしなければ航続距

離は稼げない。リチウムウオン2次電池は、今でこそ発火の問題は少なくなっているが、シ

ボレー「ボルト」の例もあるようにいつ何時発火するかわからないのである。そのため衝突

試験
耐久試験にはなんとしても合格しなければならない。これらのことを考えると軽くて

も頑丈なボデーが必要となる。どんなバッテリーを、どこに搭載するかは、非常に重要な問

題となろう。だから今度はベンチャーでなく本来の自動車企業の腕の見せ所となろう。


第6が
、バッテリーとモーターなどを管理する仕組みづくりである。いわゆるパソコンで言

えば、オペレーティングシステムOSに該当するプログラムである。先にトヨタはハイブリッ

ド車での経験で、この点では大層優れているといったコメントもあった(2012.5.4,NO.108)。

電気自動車ともなれば、このプログラムが最も大切なものとなろう。しかも破綻のないよう

にしなければならない。かってトヨタプリウスで、「ブレーキが抜ける」などといったイチャ

モンがついた事がある。これなども、多分、小生には技術的なことやそのほかの重要なこ

とはわからないが、ハイブリッド車におけるOSの一寸した不備だったのであろう。たまたま

発覚した時期が悪かったので、大きな問題となってしまったが、現在の「i-MiEV」や「リー

フ」にも大なり小なり発生していることであろう。大きな問題になっていないだけではないか

と、想像している。まあ、「残り何キロ走れます」とかいった警告文などは、あまり信用され

ないかもしれないが、このOSの良し悪しは、重要である。


まだまだエンジン車に取って代わるには、電気自動車には超えなければならない問題が山

積みしている。エンジンとトランスミッションを取っ払って、バッテリーとモーターを置けは良

い的な考えでは、電気自動車は走らないものと思っていたほうがよかろう。


そのためしばらくはPHEVなどが、評判は良くないが、幅を利かす時代が来るのではない

かと、小生は思っている。これからも目が離せないと言うことである。

(終り)