纏向遺跡と邪馬台国(日本古代史の謎)(18)

同位体比法の原理

地球の誕生時には、中性子数の異なる同位体組成は元素毎に一定の値で、地球上どこでも同じであり、時間の経過による変化はほとんどないとされています。しかし、例外としていくつかの元素は変化します。鉛(Pb)は、そのひとつです。鉛の同位体は主に204Pb、206Pb、207Pb、208Pb4種が安定して存在していますが、これらの内、206Pb、207Pb、208Pbは、それぞれ238ウラン(U)、 235U、232トリウム(Th)から、放射壊変という放射線を出すことにより安定な原子核に変化して得られる最終核種になります(Pbは放射線を出さない安定核種です)。

地球誕生時の岩石・鉱物中には僅かなウラン(U)、トリウム(Th)が含まれており、長い年月と共にU、Thは放射壊変により鉛の同位体へと変化します(図1参照)。そのため、238U、235U、232Thは減少し、206Pb、207Pb、208Pbは増加します。

204Pbのみは地球が生成された時の存在量のままで変化しません。地殻変動などの影響で、鉛が濃縮し、鉛鉱床が生成すると、ウランとトリウムは排除され、それ以後同位体比は変化せず、安定して存在することになります。つまり、地球誕生時に岩石中に含まれていた鉛の量とウラン、トリウムの量、共存時間によって、鉛の同位体比は地域によって異なる値を示し、それぞれの鉱山の固有値となるというわけです1-3)。

考古遺物の原料に関する産地推定の研究は、以上のような原理を応用し、鉛鉱床あるいは産出地域の鉛同位体比との比較により産地を推定できるようになりました。


同位体比測定法

遺物中の鉛同位体比の測定は、遺物である金属材料から鉛を単離することから始まります。当事業所は、平尾先生の方法を踏襲していますので、電気分解法(電着法)にて鉛の分離精製を行っています。分離して得られた鉛はリン酸及びシリカゲルと共に、レニウムフィラメント上に載せ、表面電離型質量分析装置MAT262に導入します。鉛は、通電加熱により気化、イオン化させて、質量分離を行います(図2)。測定する質量は、鉛同位体の204Pb、206Pb、207Pb、208Pbの4種です。これら同位体は、同時に測定しないと精密な比として計測できないため、検出器は質量を順番に測定するシングルコレクターではなく、複数台の検出器で、上記4種の同位体を同時に測定するマルチコレクター型の装置を使用する必要があります。


同位体比測定値の表記

馬淵久夫氏・平尾良光氏らにより、弥生時代古墳時代から古代にいたるまでの日本で出土した中国・朝鮮半島系の青銅及び日本で作られた青銅資料、現代の日本、中国、朝鮮の鉛鉱石を系統的に分析した結果、208Pb/206Pbを縦軸、207Pb/206Pbを横軸にしたa式図(図3)、207Pb/204Pbを縦軸、206Pb/204Pbを横軸にしたb式図(図4)で図化すれば、グループ分けが有効に行えることが見出されました。a、b式図中に明記したA~Dの4つの領域は、東アジアの鉛同位体比分布を表し、出土した鉛を含む全ての遺物である銅製品、ガラス玉などの鉛同位体比測定結果から、原材料の産地を推定できるようになりました。


おわりに

以上のような測定以外にも鉄・非鉄などあらゆる遺跡出土遺物や文化財の分析を、尼崎事業所、八幡事業所及び富津事業所にて行っております。最先端の分析技術が歴史解明の一助となるよう、お手伝いさせていただきます。

お問い合わせ窓口
尼崎事業所 解析技術部 渡邊 緩子
TEL: 06-6489-5753
FAX: 06-6489-5958
E-mail: watanabe-hiroko2@nsst.jp
<参考文献>
1) 馬淵久夫・富永健、「考古学のための化学10章」東京大学出版会、1981、
p.129-178.
2) 国立歴史民族博物館、「科学の目でみる文化財」、1993、p.207-221.
3) 平尾良光編、「古代青銅の流通と鋳造」鶴山堂、1999、p.31-39.

https://www.nsst.nssmc.com/tsushin/pdf/2016/90_3s.pdf

(続く)