森保ジャパン、8強入りならず(2)

堂安律の同点弾の8分後、ボルシアMGのDF板倉滉からの山なりのロングパスを受けたFW浅野琢磨(ボーフム)の神憑り的な右足トラップで受け、快速でドリブルしゴール右へ豪快な一発を蹴りこんだのである。 

 

ボルシアとはラテン語で「プロイセン」を意味するとWikipediaには書かれている。MGもMönchengladbachメンヒェングラートバッハ)という地名のようで、地図で確かめるとデュッセルドルフのすぐ西隣にある都市である。 

 

それはさておき、これには、サッカーの母国イギリスでも驚きと称賛の声が相次いだ。 

 

「えっ!アサノってアーセナルにいたあ

のアサノ?」日本代表“歴史的番狂わせ

に英国メディアも驚いた…超辛口解説

者が絶賛「モリヤスは素晴らしい」

 

田嶋コウスケ - posted2022/11/24 17:22 

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田嶋コウスケKosuke Tajima 

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Kiichi Matsumoto/JMPA 

 

日本代表が優勝4回を誇るドイツ代表を2-1で撃破した“大番狂わせ”。「アンビリーバボー!!」…サッカーの母国イギリスのメディアでも驚きの声が相次いだ。現地在住の筆者が綴る。 

 

後半12分に投入された浅野拓磨が逆転ゴールを決めた。ドイツ相手の“歴史的番狂わせ”にサッカーの母国・イギリスメディアも驚いた© Number Web 提供      

 

「アンビリーバボー!! アーンビリーバボー!! あぁ、なんてことだ。絶対に信じられない。素晴らしいランに、素晴らしいトラップ、そして素晴らしいシュート。センセーショナルなゴールだ」 

 

 W杯カタール大会のドイツ対日本戦で浅野拓磨が逆転ゴールを叩き込むと、テレビ中継の解説を務めた元スコットランド代表FWのアリー・マッコイスト氏声をからしながら絶叫した。 

 

 英テレビ局ITVのアナウンサーが「我々の周りにいるドイツ人ジャーナリストが全員、怒りを爆発させて腕を振り上げています」と応えると、マッコイストは「日本のマジックだね」と笑った。 

板倉のFKから“神トラップ”で抜け出した浅野拓磨(28歳) ©Takuya Kaneko/JMPA
 

 

 さらに試合が2−1で日本の逆転勝利に終わると、マッコイストは日本代表に称賛の言葉を並べ始めた。 

 

凄まじい夜だ。なんとブリリアントな(輝かしい)後半だったのだろう。本当に楽しい試合だった。この場所にいられたことを光栄に思う 

 

“超辛口”なロイ・キーンが「日本の監督は素晴らしい」 

 

 映像がスタジアムの室内スタジオに切り替わった後も、解説陣は日本の劇的な勝利に興奮を抑えられない様子だった。早口で語り始めたのは、総合解説を務めたロイ・キーンである。 

 

 キーンは、アレックス・ファーガソンが率いたマンチェスター・ユナイテッドで1997~05年に主将を務めたレジェンド。現在は解説者を務めており、忖度ナシの超辛口な批評が売りだ。普段なら勝利チームに対しても厳しい批評をする51歳のアイルランドだが、この日ばかりは日本代表の奮闘を手放しで褒めた。 

 

アメイジング。日本代表は勝利に値した。2つのゴールは本当に最高だった。(司会者:4年前のロシアW杯でも日本代表はベルギーから2点のリードを一時奪うなど善戦しています。この勝利も突然降って湧いたわけではありません) いやいや、もちろん突然降ってきたわけではない。だが、相手はドイツだ。しかも今回のドイツは、4年前のW杯で初戦を落とし、その失敗から学んでいる。以前より強さは増しているだろう。そのドイツに1点リードされた。そうなると、勝利の道は本当に長くなる。険しいよ」 

 

 キーンが特に褒めていたのが森保監督だった。後半頭にシステムを4バックから3バックに変更して試合の流れを変え、さらに浅野と三笘薫の投入で流れを一気に自分たちに引き寄せた。その采配が決め手になったと、次のように語った。 

 

「称賛に値するのは日本代表の監督だ。後半に入ってチームをリフレッシュさせなければならず、選手交代を行なう必要があった。おそらく、交代策は事前に考えていたゲームプランだったと思うが、それにしてもドイツを相手に2ゴールを挙げるとは……ファンタスティックだ。 

 

 日本代表から感じたのはスピリットとエネルギーだ。しかも、最後まで決して失われなかった。繰り返すが、何よりすごかったのは、試合をひっくり返すために行なった諸々の決断だ。本当に聡明だった。2点を奪って逆転するのは決して簡単なことではない。見応えのある試合だった」 

 

 またキーンは自身の経験を引き合いに出し、「途中交代で出場する選手は、試合のスピードについていけない者がいたり、ピッチの外から試合の流れを正しく見ていない者もいる。スイッチをオフにしている者もいて、出場しても残念な結果に終わることは少なくない」と話した。しかし日本代表はそんなことがまったくなかったとし、「途中出場した選手が投入後すぐに大きなインパクトを残した」と称賛。日本代表メンバーから溢れ出る一体感もドイツ戦の勝利につながったと語気を強めた。 

 

「ドイツ監督は5点、森保監督は8点」 

 

 そんな劇的な勝利を、英メディアも大々的に伝えた。 

 

 英紙タイムズ(電子版)は、スポーツ面ではなく社会面のトップニュースとしてサムライブルーの勝利を報道。「日本代表が見事な逆転勝利。ドイツ代表はW杯でまたしても早期敗退の危険高まる」の見出しで、日本がドイツを窮地に追い込んだと伝えた。記事では「W杯で4度の優勝を誇るドイツが、森保監督によるシステム変更によって打ち砕かれた。日本が示した後半のパフォーマンスは驚きだ。ディフェンスラインを5枚にすることでリスクとその報酬をコントロールし、交代で入った堂安律浅野がチャンスを最大限に生かした」と記した。 

 

 また英テレビITVは「浅野が日本サッカー史に残る名ゴールを決めた。日本サッカー史上、今日は最高の日になる」と指摘。英紙デーリー・メールも「アンダードッグ(弱者)の日本代表が大番狂わせを演じた」と大きく伝えた。なお同紙は、選手採点欄でGK権田修一に両軍通じて最高点の8点を与えた。監督欄ではドイツのハンジ・フリック監督が5点の低評価だったのに対し、森保監督は権田に並ぶ8点の高評価となった。 

 

アサノが、アーセナルファンを熱狂させた 

 

 イングランド代表のOBたちもツイッターで日本代表を讃えた。 

1992~94年に名古屋グランパスでプレーしたガリー・リネカーは、堂安の同点ゴール時に「Subarashii desu!(素晴らしいです)」とローマ字で記し、浅野の逆転ゴールでは「Sugoi!(スゴイ!)」と興奮気味に祝福した。現役時代はマンチェスター・Uでプレーしたリオ・ファーディナンドは試合後に「Japan」と書き込み、驚いた顔と拍手の絵文字でジャイアント・キリングを起こした日本代表を褒めた。 

 

Japan  

 

Rio Ferdinand (@rioferdy5) November 23, 2022 

Sugoi! Japan lead. Surely Germany don’t fall at the group stage 2 World Cups running. 

 

— Gary Lineker (@GaryLineker) November 23, 2022 

 

 また、英スポーツサイトのフットボール・ロンドンは「ドイツ戦で決勝ゴールを決めた浅野が、アーセナルファンを熱狂させた」と伝えた。 

 

 記事では、2016年にアーセナルへの完全移籍が発表された浅野が英労働ビザを取得できず、その後はシュツットガルトハノーファーへのレンタル移籍を強いられたこれまでの経歴を改めて紹介。最終的に労働ビザがおりずアーセナルでプレーすることは叶わなかった浅野が、W杯で歴史的なゴールを決めたことを驚きをもって伝えた。英紙デーリー・メールも同様の切り口で報じ、「退団に追い込まれたアサノが、ドイツ相手に素晴らしい逆転ゴールを決めた。W杯史に名を刻んだ」と称賛。6年前の浅野入団時にアーセン・ベンゲル監督が語った「タクマは才能豊かな若いストライカー。将来は非常に有望だ」との言葉が間違いでなかったと伝えた。 

 

 浅野の決勝弾に元スコットランド代表FWのマッコイストが「アンビリーバボー!!」と叫び、いつもは辛口のキーンが「ファンタスティック」と日本の勝利に舌を巻いた。日本代表が挙げた勝利の余波は今後もしばらく続きそうだ。 

 

 日本代表が起こしたサプライズは、サッカーの母国イングランドでも強烈なインパクトを残したのである。 

 

https://number.bunshun.jp/articles/-/855493 

 

 

 

ドイツに勝って浮かれていたわけでもないが、次のコスタリカ戦の負けは、まことにみじめなものであった。 

(続く)