カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(38)

と言うように、ヨーロッパではBEV化が進んでゆくようだが、そんな情勢の中での合成燃料であるe-fuelの認知である。 

 

と言うことは、スポーツカーなどを含む高級車ではe-fuelを使ったエンジン車が流通するということになる。

 

敢えて「高級」とした訳は、この合成燃料バカ高い燃料なのであり、大金持ちしか使えない代物なのであるが、そのうち技術革新が進行して合成燃料も今のガソリン並みの価格となることでしょう。そうなれば、すべからくICEには合成燃料(e-fuel)が使われることとなり、CO2フリーのエンジン車も、BEVと共に闊歩していることになるのでしょう。

 

それだけ欧州のBEV一辺倒からの転換は刺激的なことなのであるが、何もBEVしか売れなくなることが確定したと言う訳ではないのであり、提案されたということだけなのである。うまくまとめた解説があるので、少々長いが、ご一読願う。読めば、疑問が晴れることでしょう。

 

 

池田直渡「週刊モータージャーナル」 

ようやく議論は本質へ 揺らぐエンジン禁止規制 

 

2023年03月27日 08時00分 公開        [池田直渡,ITmedia] 

 「あれ? なんか話が変わってきていないですか?」 

 

 ここ数カ月の「内燃機関」に関する報道を見ていて、そう感じた人はおそらく多いはずだ。 

 

内燃機関は世界的に禁止が確定し、世界のクルマは全部BEVになるという話だったはず。しかし日本だけが内燃機関時代の技術アドバンテージにしがみついて、世界で確定済みのルールに対して無駄な抵抗を続けている。 

世界で自動車を販売していくのに、日本だけ違うルールにしたところで、グローバルな競争で大敗し、世界から取り残されていくだけ。 

 

──という話だったはず。 

 

 この話は、そもそもの前提理解が間違っていて、内燃機関禁止のルールは確かに世界中で議論されているが、別にそれで確定したわけではない。「世界は脱内燃機関に舵(かじ)を切った」という言葉の受け止め方の問題である。そういう流れがあるという意味では正しい。しかし確定済で変えられない未来という理解は間違っていた。それはここ数カ月の報道を見ても分かるはずだ。 

 

 3月2日には、ドイツイタリアに加えてポーランドブルガリア内燃機関の完全廃止に反対。欧州自動車工業会も反対。厳密に言えば反対の内容はそれぞれに少しずつ違うのだが、少なくとも、日本を除く世界が「もうきれいさっぱり内燃機関は全部やめましょう」で合意形成済にはなっていないことだけは確かだ。25日には欧州委員会は「合成燃料の使用を前提として35年以降も内燃機関の販売を容認することで、ドイツ政府と合意した。 

 

 これについてはEU独自のガバナンスメカニズムを説明するところから始めたい。図は外務省が制作したものだが、見て分かる通り、欧州委員会EU理事会に対して法案や予算案を提案することしかできない。決定権があるのはEU理事会であり、今回先に挙げた国々が反対に回り、可決に要する欧州人口の65%を下回った結果、内燃機関の禁止についてはEU理事会で否決の見通しになったわけだ。 

 

EU独自のガバナンス(出典:外務省)      

 

 つまり欧州委員会が何と言おうが、それは提案であって確定ではない。EU理事会の構成メンバーであるドイツ政府が欧州員会のサジェスチョンに疑義を呈し、欧州委員会はそれを汲んで、内燃機関の販売禁止を取り下げた形である。これを見ても分かるように、法案にすぎないものを確定したかのように報道するから話がゆがんでしまう。 

 

 要するに議論が乱暴すぎたのだ。決定のプロセスにしても、脱炭素そのものの議論にしても、現実はもっと複雑で面倒くさい。「世界の危機」だと言いながら、その複雑で面倒くさいことを、分かりやすく乱暴に整理してしまうから話がおかしくなる。 

 

「敵は炭素であって内燃機関ではない」 

 

 伝える側の問題は大きいが、受け取る側の問題もある。内燃機関の全面禁止の弊害などいくらでも書き出せるのだが、そういう真面目な問題提起に対して「なんだか医者から食生活改善を指示されているのに、何もしようとしない糖尿病患者みたいだな」という見方がある。筆者が書いた記事のコメント欄でリアルに見かけた言葉である。 

 

 しかしよく考えてみよう。例えば「糖質を制限しましょう」と医者が言ったからと言って、それは糖質の完全禁止を意味しているわけではないし、ましてや絶食を勧めているわけでもない。そんなことをしたら別のリスクが発生する。「ちゃんと計算しながら必要量は取りましょうね」という発言を「何もしようとしない」と受け取るのは恣意的すぎる。筆者からすれば面倒な計算やそのたびに判断や行動変容を求められるのを忌避するばかりに、「もう絶食でいいや」と思考停止しているように思える。 

 

 絶食ダイエットなんてもってのほか、というのは普通に考えれば分かるはずなのだが、そこでより厳しい方法を取ったほうがエラいと、求道的みたいな妙な思考が入り込むと極論に走りがちになる。ましてやそのリスクを引き受けるのが自分自身の我慢でなく、誰かを責め立てればいいのであれば、極論に走るのは簡単だ。 

 

 だからこそ、日本自動車工業会豊田章男会長は、「敵は炭素であって内燃機関ではない」と言い続けてきた。それは「糖質制限の話を絶食の話と取り違えないように気をつけましょうね」という言葉だったが、大手メディアはそれを、既得権益者のポジショントークであるかのように報じ続けた。 

 

豊田章男会長(出典:日本自動車工業会 記者会見の動画より)  

 

 こういう構造の中で、問題をややこしくしてきたのはマスメディアのミスリードと、深く調べもしないで極論を信じ、それをリツイートして拡大再生産を続ける人たちなのだが、そもそも火のないところに煙は立たない。そこに火をつけて回る人たちがいるからこういうことになるのだ。

(続く)