カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(55)

再生エネルギーはコスト低減、シェア拡大 

 


電源別の発電量シェアの実績と予測(画像:IEA)
    

 

 

 再エネはコストの低減とともに、欧州だけでなく米国でも10月の再エネ比率が前年の20.4%から22.6%に増加、さらに欧米に限らず世界中でシェアを伸ばしている。国際エネルギー機関(IEA)が年末に発表した再エネに関するリポート「Renewables 2022」によると、インドや中国でも当初の予想を上回る再エネが導入され、中国では2030年目標の1200GWを5年早く達成すると見られている。 

 

 1年前の予想と比べると、世界全体ではこの1年間で予想より30%多く導入され、さらに今後5年間で2倍に達し、過去20年間に導入された量と同等の量が追加されるとみられている。この結果、2025年には再エネの発電量が石炭を追い抜き、世界最大の電源になるとしている。 

 

 このように化石燃料の消費を減らし、エネルギー安全保障にも寄与する再エネだが、一方で天候などによって発電量が変動することが課題とされ、現時点では主に火力発電揚水式発電蓄電池などを用いて変動を吸収している。ただしGMの構想や豪・南オーストラリア州の実例を見れば、大きな蓄電池を搭載していて、一般的な定置型蓄電池よりも安価なEVがこの役割を担えることは、想像に難くない。例えば家庭向けの蓄電池は、最も安価なテスラ・パワーウォールでも工事費込みで1kWhあたり12万円以上かかるが、BYDのAtto3のような安価なEVなら、V2Hの工事費を含めても1kWhあたり9万円程度だ。 

 

 安全保障を語る上で食料自給率が話題になることは珍しくないが、エネルギーがなくては生産した食料をわれわれの食卓まで届けることすら難しい。EVを語る際は単に「車」としての側面だけではなく、インフラの一部という視点を持つことが重要である。 


EVは立ち往生したら凍死する? 

 


燃料別の寒冷地での効率比較(画像:米エネルギー省、Canuck氏の試験結果より八重さくら作成)
   

 

 冬になると決まってSNSなどで見かける「EVは立ち往生したら凍死する」という意見は、2022年12月に日本海側で大雪が降った際も多く見られた。EVは低温になると電池の性能が低下したり、暖房の使用などで航続距離が短くなったりするといわれており、米エネルギー省の資料によると、氷点下7度の環境では、25度のときと比べて内燃機関車が15%の低下なのに対し、ハイブリッド車(HV)では30~34%の低下、EVは39%の低下とされている。さらに内燃機関車のように携行缶での補給が困難なので、内燃機関車と比べて立ち往生した際のリスクが高まるという指摘は誤りではないように見える。 

 

 それでは、一概にEVは寒冷地や豪雪地帯に向いていないかといえば、そうとも言い切れない。米エネルギー省の試験結果は2013年に公開されたものであり、約10年前の古い車両を使用しているが、まだ公的機関の試験結果に反映されていない最新のヒートポンプを搭載したEVであれば、暖房による消費電力は約3分の1になると言われている。 

 

 さらにテスラなどの一部のメーカーや車種には、出発前に電池を暖める「プレヒート」機能があり、低温による電池の性能低下を抑えることができる。なお、EVは自宅や目的地などの駐車場での充電が基本であり、(特に寒冷地では)日常的に200Vコンセントにつなぐため、プレヒートにより電池が減る心配はない。 

 

 これらの最新機能を装備したEVを用いた公的機関での試験結果はまだ公開されていないが、すでに寒冷地に住む多くのEVオーナーが検証を行っている。例えばYoutubeでさまざまな検証動画を公開しているCanuck氏が氷点下8度の環境でテスラ・モデルYを使って試験したところ、プレヒートをした場合は19%、プレヒートしない場合でも28%の損失にとどまっている。これはあくまで一例に過ぎないが、米エネルギー省の試験結果と比べると、この結果はHVよりも高効率であり、内燃機関車にも迫る効率である。 


立ち往生想定、検証結果は? 

 

雪が積もった道路(画像:写真AC)   

 

 さらに国内でも多くのEVオーナーが立ち往生を想定した検証結果を公開しており、近年のヒートポンプ式の暖房を装備したEVであれば、内燃機関車と同様、電池や燃料の残量に応じて丸一日以上は暖房を使えることが知られている。雪国では万が一に備えてガソリンが半分になったら給油する使い方が知られているが、自宅充電が基本となるEVもこれと同様、(雪国に限らず)帰宅後は毎日コンセントに挿して充電することが一般的だ。(なお、筆者は自宅充電できない環境でのEVの購入は推奨しない 

 

 また、EVはエアコンの代わりにシートヒーターを使うことで、電池の持ちは数日以上まで伸びる。シートヒーターだけでは凍えるという指摘もあるが、例えば多くのEVの性能を検証しているEVネーティブ氏が氷点下29度の環境で立ち往生を再現した試験を実施。試験と同時にライブ配信を行い、「シートヒーターのみ」でも危険な状態になることなく一晩過ごせることを証明している。 

 

 一方でEVは携行缶での給油ができないことから電欠時や解消後の救援を気にする声も聞かれるが、立ち往生のリスクが高い地域には、すでに移動式の急速充電器が配備されている。数分の充電で数十km走行可能であり、多くの場合、近隣の充電設備までたどり着けるだろう。さらにEVからEVへ給電できる車種も発売されており、将来的にEVが増えた場合は、街灯や電柱など電気が来ている場所に非常用コンセントを設け、非常時はそこから給電する方法も考えられる。 

 

 ただし根本的な問題は(EVや内燃機関車にかかわらず)立ち往生を発生させたり、車内での長時間待機を余儀なくされたりする点だ。立ち往生が発生するような寒波はほとんどの場合、事前に予測可能であり、そのような状況では対策なしで車を使用しないことを徹底し、除雪が追いつかないと予測される災害的な状況では迷わず通行止めにするなど、行政の対応見直しも必要だろう。万が一それでも立ち往生が発生した際は命を守ることを最優先し、乗員を車内で待機させるのではなく、救助できる体制を整えるべきだろう。 

(続く)