カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(92)

矢吹明紀氏の次の論考も参照されるとよい。 

 

全固体電池ばかり注目してはいけない! トヨタ発表で垣間見えたリチウムイオン電池「商品性向上」の可能性、今後のBEV戦略を予想する 

2023.6.14 矢吹明紀フリーランスモータージャーナリスト) 

 

トヨタ6月13日、現在実用化に向けて開発中の次世代技術を一挙公開した。全固体電池ばかりに注目があつまった今回の発表だったが、実は他にも興味深いものがあった。 

 

「全固体電池」とは何か 

 

トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)      

 

 トヨタは6月13日、現在実用化に向けて開発中の次世代技術を一挙公開した。これは去る6月8日にメディア向けに開催された新技術説明会である「トヨタ・テクニカル・ワークショップ」を通じて行われたもの。その内容は電動車関連、水素関連、燃料電池関連、空力関連、車体構造関連、製造技術関連など多岐にわたっている。 

 

 それらのなかで、特に強いインパクトがあったものは何だろうか。既にニュースなどでは次世代バッテリー式電気自動車(BEV)用のキーテクノロジーとなる「全固体電池」に関する情報が大きく取り上げられている。今回発表された資料に記載された全固体電池の高性能ぶりは、実用化の暁には世界のBEV市場内の力関係を一変させる可能性も秘めている。 

 

 全固体電池とは 

 

「電解物質の固体化で、高出力、大容量、充電時間の大幅短縮などを可能とする電池」 

 

の総称である。 

 

 高性能である一方、これまでは 

 

・使用する素材
・工作関連の技術ノウハウ 

 

の確立が困難という大きな問題があった。 

 

 トヨタは今回、そうした課題におけるブレイクスルーとなる技術を発見したという。その詳細は明らかにはされていないが、2027年から2028年をめどに全固体電池を使ったBEVの実用量産化を目指す 

 

航続距離の大幅な伸長 

 


bZ4X(画像:トヨタ自動車
 

 

 今回、全固体電池EVの推定性能として発表された数字は実に魅力的である。ここでは、現状での最新BEVであるトヨタbZ4Xとの比較という形で解説された。 

 

 まずbZ4Xの最大航続距離と最短充電時間はそれぞれ615km30分だ。これに対して全固体電池を使用した場合の航続距離は220%、すなわち 

 

1353km 

 

となる。最短充電時間は10分。ガソリンの満タン補給に要する時間に大きく近づいたといえる。 

 

 ちなみにこれが限界性能というわけではなく、同時に開発を進めているさらなる次世代型の最大航続距離は250%。すなわち1537kmとなる。最短充電時間は10分と同じである。 

 

 なお、これらの数字は既述したとおり、今回同時発表された空力技術や構造技術の進化なども加味した上で導き出されたものだ。すなわちトヨタ新技術の集大成となるということだ。 

(続く)