「製造コスト」の課題山積
全固体電池(画像:トヨタ自動車)
ただし良いことばかりではない。実用化に向けて加速し始めた全固体電池ではあるが、
「製造コスト」
に対する見通しが現時点ではほぼ立っていない。
トヨタ以外の他社での例も踏まえた試作レベルで語られている推定コストは、高価である。その数字は既存のリチウムイオン電池に対して
「おおむね5倍から30倍」
というもの。推測値だとしても正直なところ幅が広すぎる。使用素材をどうするか。工作方法はどうするか。工場等の量産体制はどうするか。トヨタにおいても、コストに関する精査はまだこれからということだ。
さらに全固体電池は、現時点でBEVを量産しているメーカーの多くが量産化に向けて開発を進めている。すなわち
「ライバルが少なくない」
ということである。
そうした状況のなか、トヨタが有利なポジションを確保することができるかどうか。これも現時点では未知数だ。今回、トヨタが全固体電池について一歩踏み込んだ具体的な発表を行った背景には、ライバル各社へ向けてのアピールという意味もあったことが推測できる。
リチウムイオン電池の「商品性向上」も
さて、全固体電池ばかりに注目があつまった今回の発表ではあったが、実は他にも興味深いものがあった。それは既存のリチウムイオン電池の大幅な
「商品性向上案」
である。ここで性能向上ではなく商品性向上と表現したのにはわけがある。
それは新たに提供される電池は、使用する用途に合わせコストパフォーマンスの面での刷新が図られているということだ。それについて具体的に内容を見てみよう。新しいリチウムイオン電池には3種が計画されている。
まずは2026年に実用化を目指しているパフォーマンス版である。これは使用する電池素材や構造を大きく変えることなく、基本となるエネルギー密度を高めつつ車両側の空力性能向上や軽量化などを併用したものだ。
その最大航続距離はbZ4Xとの比較で200%。すなわち1230kmだ。この数字は控え目に1000km以上とも表現されているが、いずれにしても優秀である。その上で最短充電時間を20分に。コストも-20%を目指す。
続いて、2026年から2027年をめどに実用化を目指すという普及版である。これは正極素材に安価なリン酸鉄リチウムを使用、構造をバイポーラと呼ばれるシンプルなものとすることで、コストを-40%としたもの。最大航続距離はbZ4Xとの比較で+20%の738km。最短充電時間は30分とbZ4Xと変わらない。
最後は2027年から2028年での実用化を想定したハイパフォーマンス版だ。これはバイポーラ構造とハイニッケル正極を組み合わせたもので、最大航続距離はbZ4Xとの比較で210%。すなわち1291kmである。最短充電時間は20分。その上でコスト削減量をパフォーマンス版と比較してさらに10%を上積み。すなわちトータルでは-30%のコスト削減を目指すという。
BEV戦略が目指すもの
(続く)