世界自動車大戦争(99)

その一部でも、身に染みてもらおう。

 

 

 

「全固体電池」をやさしく解説、従来の電池との違いや実用化の見通しは?

   2019/10/09

 

       近年、リチウムイオン電池を超える次世代電池として全固体電池という言葉をよく耳にするようになりました。「電池は最初から固体だろう」と思われる方も少なくないでしょうが、実はこの全固体電池は従来の電池と異なるいくつかの特性を持ち、リチウムイオン電池を超える性能を秘めています。すでに一部は実用化されており、10年以内に電気自動車への搭載が始まります。全固体電池の仕組みと可能性について、やさしく説明していきます。

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  フリーライター 三津村直貴 期待の高まる電池の新技術、その仕組みとは

Photo/Getty Images) 

 

<目次>

1.全固体電池とはなにか

2.全固体電池は今までの電池と何が違う?強みと弱み

3.酸化物系と硫化物系の全固体電池、用途の違い

4.全固体電池開発の現状、各社の取り組みは?

5.全固体電池が実装されたら世の中はどう変わるか

  

全固体電池とはなにか

 全固体電池とは、電流を発生させるために必要でこれまで液体だった「電解質」を固体にした仕組みの電池のことです。

 電池は主に「電極」「活物質」「電解質で構成されており、活物質や活物質に含まれるイオンが電解質というプールの中を泳ぐことで電極間(負極から正極の間)に電子を通し電気を発生させています。つまり、電池を構成する電解質は「イオンが素早く動き回れるような特性」を持っていなければならないのです。

 人間で言えば、電解質は血液に含まれる水分のような立ち位置です。血液中の水分が失われてしまえば、栄養や老廃物の移動がスムーズに行かず脱水症状を起こします。電池も同様で、電解質が失われたり凍って固まったりすれば、電気エネルギーの移動がスムーズに行えなくなって電気が流れなくなります。

 では、簡単に従来の電池の構造を見てみましょう。図119世紀に開発されたボルタ電池、図2はさまざまな電子機器で使われているリチウムイオン電池です。

 

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  1:ボルタ電池の仕組み
電解質は硫酸。活物質(亜鉛、水素)自身が電子の授受を行う

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  2リチウムイオン電池の仕組み
負極から正極へ電子が流れることでリチウムイオンが負極から正極へ移動し、放電が行われる。充電時は逆の動きが行われる。セパレータは活物質(酸化物・カーボンなど)同士の直接接触を防ぐが、リチウムイオンは通す


 どちらのケースでも電解質は液体であり、液体の中を水素イオンやリチウムイオンが動き回り、電極に電子を通すことで電気が流れます。

 ちなみにボルタ電池は電解質が薄い硫酸、リチウムイオン電池電解質は発火・爆発の危険性がある有機溶媒が使われており、二重三重の安全対策が必要不可欠です。そんな危険な液体電解質は、凍って固体になってしまうと電気を流さなくなります。

 ところが、全固体電池ではこの電解質に特殊な物質を利用することで、固体であるにも関わらず電気が流れるようになるのです。

  

全固体電池は今までの電池と何が違う?強みと弱み

 先ほど、電解質は血液の水分のようなものと言いました。つまり全固体電池という存在は血液が凝固してカチコチに固まった人間が生きているようなもので、従来の電池の常識からすれば信じられません。

 実際、全固体電池は長年実用化できないと考えられていました。ところが、固体であるにも関わらず、内部で電子を運搬する小さな物質(イオン)が動き回って十分な電気を流すことができる物質が発見されたことで全固体電池の開発が活発化しました。

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   3:全固体電池の仕組み
イオンの通る電解質に固体を用いている。活物質が触れ合う恐れがないので、セパレーターを必要としない


 それでは、電解質が固体になると何が変わるのでしょうか?

 

全固体電池に共通する特性

1. 構造や形状が自由。薄型など、柔軟な電池が実現

2.小さな層を重ねることで小型・大容量化が可能

3.固体なので丈夫。寿命が長くて熱や環境変化に強い

4.高速充放電が可能


 従来の電池で使われていた液体電解質のほとんどが危険な物質で、液漏れは致命的な事故につながります。従来の電池はこの「液漏れ」を防ぐために丈夫な容器が必要でした。

 しかし、全固体電池ではそれが不要になるため、形状の縛りがなくなります。薄くしたり、層を重ねて多重構造を作ったり、折り曲げることも可能になります。さらに、多少傷がついても電池の性質を失わず、変質もしないので寿命が長く、熱や圧力変化にも強いのでさまざまな環境で利用することが可能です。多層化によって「小さな電池を大量に詰め込んだ電池」を作れれば、大容量にもかかわらず素早く充電が可能な電池が実現します。

 さらに、全固体電池の固体電解質には大きく分けて「硫化物系」と「酸化物系(セラミック)」に分かれており、それぞれに強みと弱みがあります。次ページでくわしく説明します。

 なお、図3のように、実は多くの全固体電池では電子の授受に「リチウムイオン」を利用しています。つまり、全固体電池も「リチウムイオン電池」の一種と考えることもできるのです。

 そこで区別するために「全固体リチウムイオン電池」と呼び分けることもあります。というのも、リチウムは電子の授受を行う物質としては最高レベルの性能を有し、全固体電池に限らず高性能な電池の多くがリチウムを利用しているためです。

 ただこのリチウムがくせ者で、水と反応する性質を持っています。そのためこれまでは電解質に水が使えず、有機溶媒などの危険な電解質を使わざるを得なかったのです。ようやく近年になって不燃性の電解質を使ったリチウムイオン電池が開発されました。

 リチウムを利用する電池は色々あるものの、それぞれ使われている「電極」「電解質」「活物質」が異なっており、同じものではないことに留意する必要があります。

【次ページ】酸化物系と硫化物系の違い、全固体電池への各社の取り組みは?

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37046?page=2

 

(略)

 

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37046

 

 

 

 

電気を通す固体電解質が見つかったとはいえ、個体であるため単純に言うとその電気抵抗が大きすぎて、大量の電気を流すことが出来ないことがネックとなっていた訳だ。


(続く)