カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(104)

 内燃機関が水素を燃料とすると、炭化水素である化石燃料とは異なり、排ガス中にCOやCO2は生成されない。わずかの窒素酸化物は生成されるものの、カーボンフリーという意味では申し分ない。 

 

 エンジンの特性や操縦感覚においても、既存のディーゼルエンジンから大きく異なることはない。すなわち、操縦感覚や操作の違いに起因するドライバーへの心理的負担はほとんどない。 

 

 もちろんよいことばかりではない。まず、現状で 

 

「300km」 

 

というその航続距離である。この数値は 

 

・走行する地域の道路環境 

・走行パターン 

・搭載する貨物の重量 

 

などで大きく変わる。300kmの航続距離は理想的な数値であり、実際に走行可能なのはそれ以下と判断するのが妥当だろう。 

 

 加えて、最悪のシチュエーションとして、出先で燃料の水素が切れた場合、その補給は困難であることから、実際の運用では相応の余裕を見た走行条件で行われるはずだ。 

 

 その数字がどのレベルになるかは不明だが、仮に200km程度としたら使用できるのは市内での短距離ルートのみとならざるを得ない。トラックの場合、航続距離が限定されると 

 

「ビジネス上の大きな障害」 

 

となる。必要に応じてその都度水素ステーションに補給に戻るというのも、効率的な運用という意味ではこれも障害である。 

 

障害を克服する方法とその課題 

 

同排気量ディーゼルエンジンとの性能曲線比較。2023年4月発表(画像:トナミ運輸東京都市大学早稲田大学アカデミックソリューション、北酸、フラットフィールド)     

 

 これらを改善するには 

 

・水素タンクの容量を増やす 

・充填圧力を上げる 

 

といった対策が必要となる。 

 

 ただし、これらは安全性上の懸念が増すという大きな問題がある。現状での40kg(70MPa)という水素タンクのスペックは、これらを綿密に検証した結果、設定されたものだろう。実証走行を通じて容量や圧力が足りないことが判明したからといって安易に増やすことはできない。 

 

 水素補給ステーションについて、既に二か所が確保されているのは安心要素だが、それらインフラ施設運営も含めての総合的なコスト計算はこれからの課題となる。 

 

 運用する水素燃料車両が順調に増えればよいが、そこに至るまでの時間は推測するしかない。その間のコスト負担も、ビジネスとしては懸念要素となる。 

 

 さらに水素ステーションの運営においては、保守管理の面で通常のガソリンスタンド以上のノウハウが要求される。これもまた運用コストが跳ね上がる原因になりかねないのだ。 

 

水素エンジンの相対メリット 

 

物流トラック(画像:写真AC)     

 

 ここまででわかるとおり、水素エンジンは車両本体の環境性能や操縦特性に優れている一方、必要とするサポートインフラにコストが掛かる。加えて、商用トラックについては 

 

・バッテリー式電気自動車の普及促進 

燃料電池車のコスト削減と実用化加速 

 

などのプロジェクトが多くの企業や団体を通じて推進されている。 

 

 それらに対して水素エンジンにはどんなメリットがあるのか。今回の実証実験を通じて、よりリアルタイムかつわかりやすくプレゼンテーションする必要があるだろう。 

 

 水素エンジン車両については、引火性の高い水素を搭載することから事故などの安全性を懸念する声もあるが、それは水素に限ったことではない。安全性を追求し高めることは重要だが、現状では実際の運用においてコスト的にモノになるのか、すなわち 

 

「ロジスティックビジネスの手段」 

 

として、使用者にメリットがあるのかどうかをしっかり検証することの方が優先順位としては上だ。 

(続く)