カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(141)

 


今村卓丸紅 執行役員 経済研究所長
 

 

分析・考察 

関税ではなく米国の消費者に対する税額控除を使うことも影響したと思います。米国民の税金を使うなら米国、製造業なら一体の北米の雇用創出と産業強化を優先すべきという主張は、少なくとも米国内では公正であると理解され強い説得力を持ちます。EVや電池、重要鉱物では競争力のある中国を念頭に置いた経済安全保障の目的もあり同盟国や同志国を優遇対象に加える考えは成り立ちますが通用しませんでした。前者の主張に割り込ませるだけの説得力を与えられなかったということでしょう。当然、米国と日本など同盟国の関係には悪影響を与えます。逆にそれを日欧韓は強く訴えてバイデン政権に譲歩、条件変更を求めていくべきだと思います。 

2023年4月18日 8:38 (2023年4月18日 8:49更新)96 

 


鈴木一人東京大学 公共政策大学院 教授
 

 

分析・考察 

日欧韓はインフレ抑制法が出来てから必死になって交渉し、「みなしFTA」として重要鉱物の要件をなんとか満たそうとしたが、及ばなかったようだ。今後、対象車種に選ばれる可能性はあるとしても、優遇税制を受けられる車種とのブランディングの差が生まれ、市場参入は容易ではなくなる。米国メーカーばかりが選ばれたのは保護主義的なニュアンスを伴うが、それでも米国内で生産しているメーカーに対しても厳しいというのは、やはり電池分野で中国にサプライチェーンを握られたくない、という思いなのだろう。ここまで来ると安全保障の問題ではなく、産業保護と中国企業の台頭への恐怖としか思えなくなる。 


 

2023年4月20日 5:0511 

 


鈴木亘学習院大学経済学部 教授
 

鈴木卓 

分析・考察 

当然、欧州は対抗措置として、米国メーカーのEV車の税制優遇を止める可能性が高い。問題は、そうなった時に日本はどうするかである。日本メーカーのEV車の税制優遇しか認めない保護主義をとると、日産サクラ・三菱EKクロスEVのような日本でしか通用しないガラパゴス規格の車ばかりになってしまい、EV車の正常な競争がそがれてしまう可能性がある。いずれ、自由競争に戻った時に、取り返しがつかない遅れとなる。一番良いのは、欧州と交渉し、EV車の優遇税制を相互に認める協定を結ぶことである。韓国や中国とも結べばさらに良い。そうなると、米国VSその他世界という構図になるので、米国が政策を変える可能性も高まると思われる。 

2023年4月18日 8:38109 

 


菅野幹雄日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
 

 

ひとこと解説 

テスラ2、GM6、フォード3、その他ゼロ。流れはすでにできていましたが、やはり、露骨な自国EV車の優遇ぶりをこうして具体的に見せつけられると、民主主義や自由貿易を率いるはずの超大国としての身勝手な振る舞いに強い違和感を新たにします。バイデン政権としては、「自国優先」の強さで共和党候補と戦う来年の大統領選挙に向けた背水の陣を引いたところなのでしょうが、国際的な信用には響くのではないでしょうか。日本はもちろんEU、韓国などがこの決定にどう反応するかが焦点。米国に批判の強い圧力をかけて改善を迫るか、泣き寝入りの形で米国一貫生産などの体制を整えるか、巨大市場との関わり方で難しい選択を迫られます。 

2023年4月18日 7:36 


https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17CCA0X10C23A4000000/ 

(続く)