カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(74)

18日から新たに車載電池の部品の一定割合を北米でつくる電池に使う希少金属など重要鉱物の一定割合を米国や米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国などから調達する、という2つの条件を適用する。新たな要件が加わるため、販売支援のハードルは高くなり、対象車種数もこれまでの14車種から11車種に減った。 

 

メーカー別では、最大手テスラの主力車種「モデルY」「モデル3」に加え、ゼネラル・モーターズが6車種、フォード・モーターが3車種という内容になった。対象車種すべてを米国メーカーが占めた。 

 

一方、歳出・歳入法の要件のもとでも、これまでは税優遇の対象になっていた欧韓のEVはすべて対象から外れた日産自動車のEV「リーフ」が外れたほか、韓国・現代自動車と独フォルクスワーゲンVW)のEVも税優遇を受けられなくなった。いずれも、車載電池に関する条件をクリアできなかったためとみられる。 

 

    

 

米国では4万〜5万ドルがEVの売れ筋になっている。最大7500ドルの税控除は価格競争力を維持するうえで無視できない。米国外のメーカーは今後、税優遇を受けるために北米生産を加速したり、調達網を見直したり体制整備を急ぐことになりそうだ。 

 

電池を巡る要件の追加は、米国勢にとっても厳しいものになっている。新興企業リヴィアン・オートモーティブのEVは対象外となった。テスラについても、モデル3の一部グレードは支援額が7500ドルから半分の3750ドルに減額となった。 

 

それでも、リストはすでに北米に生産・調達基盤を持つ米国メーカーが優位な結果になっている。歳出・歳入法のもとでの米政府のEV販売支援策を「米メーカーへの過度な優遇措置」と批判してきた日欧韓の政府の反発が強まる可能性がある。 

 

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※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。 

 


今村卓
 丸紅 執行役員 経済研究所長 

 

分析・考察 

関税ではなく米国の消費者に対する税額控除を使うことも影響したと思います。米国民の税金を使うなら米国、製造業なら一体の北米の雇用創出と産業強化を優先すべきという主張は、少なくとも米国内では公正であると理解され強い説得力を持ちます。EVや電池、重要鉱物では競争力のある中国を念頭に置いた経済安全保障の目的もあり同盟国や同志国を優遇対象に加える考えは成り立ちますが通用しませんでした。前者の主張に割り込ませるだけの説得力を与えられなかったということでしょう。当然、米国と日本など同盟国の関係には悪影響を与えます。逆にそれを日欧韓は強く訴えてバイデン政権に譲歩、条件変更を求めていくべきだと思います。 

2023年4月18日 8:38 (2023年4月18日 8:49更新) 68 

 


鈴木亘学習院大学経済学部 教授 
 

 

分析・考察 

当然、欧州は対抗措置として、米国メーカーのEV車の税制優遇を止める可能性が高い。問題は、そうなった時に日本はどうするかである。日本メーカーのEV車の税制優遇しか認めない保護主義をとると、日産サクラ・三菱EKクロスEVのような日本でしか通用しないガラパゴス規格の車ばかりになってしまい、EV車の正常な競争がそがれてしまう可能性がある。いずれ、自由競争に戻った時に、取り返しがつかない遅れとなる。一番良いのは、欧州と交渉し、EV車の優遇税制を相互に認める協定を結ぶことである。韓国や中国とも結べばさらに良い。そうなると、米国VSその他世界という構図になるので、米国が政策を変える可能性も高まると思われる。 

2023年4月18日 8:38 79 

 


菅野幹雄日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
   

 

ひとこと解説 

テスラ2、GM6、フォード3、その他ゼロ。流れはすでにできていましたが、やはり、露骨な自国EV車の優遇ぶりをこうして具体的に見せつけられると、民主主義や自由貿易を率いるはずの超大国としての身勝手な振る舞いに強い違和感を新たにします。バイデン政権としては、「自国優先」の強さで共和党候補と戦う来年の大統領選挙に向けた背水の陣を引いたところなのでしょうが、国際的な信用には響くのではないでしょうか。日本はもちろんEU、韓国などがこの決定にどう反応するかが焦点。米国に批判の強い圧力をかけて改善を迫るか、泣き寝入りの形で米国一貫生産などの体制を整えるか、巨大市場との関わり方で難しい選択を迫られます。 

2023年4月18日 7:36 155 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17CCA0X10C23A4000000/?n_cid=NMAIL006_20230418_H 

 

 

アメリカでは来年大統領選挙があるので、バイデン大統領も選挙対策に余念がないのだ。バイデンはこのインフレ抑制法(Inflation Reduction Act歳出・歳入法で、「EVの未来を築き、アメリカの製造業の雇用を回復させている」とうそぶいているようだ。 

(続く)