カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(75)

見事、対象車両は、テスラ・GM・Fordの11車種だけで、現地生産している日産のリーフなどは除外されている。現地生産しているにも拘らず、このIRA法に合致しなかったわけだ。 

 

この法律のためには、BEVの米国内での生産組み立てだけではなくて、半導体などの先端技術の米国内投資も必要となってくる、はずだ。いわば中国外しの一環であるが、日欧もそのとばっちりを受けた感じだ。 

 

そのため日欧のメーカーは、北米生産を加速させたり、部品の調達網を見直したり体制整備に急遽取り掛かる必要がある。 

 

 

北米のEV生産、日本勢は1%未満 供給網の構築急務 

カーボンゼロ2023年4月8日 15:56 [有料会員限定] 

 

トヨタが中国のBYDと共同開発したEV「bZ3」。トヨタは北米でもEV生産を始める        

 

電気自動車(EV)事業を巡り、世界の自動車メーカーが米国で投資を急いでいる。呼び水は北米産のEVに補助金を出す米政府の税優遇策だ。先行する欧米勢に対し、日本勢は北米生産に占めるEV比率が現時点で1%に届かず、2030年ごろでも2割にとどまる見通しだ。主力の米国市場で供給網の構築が急務となる。 

 

7日トヨタ自動車が都内で開いた新体制方針説明会。佐藤恒治社長は「次世代EVの開発に全力で取り組む」と強調し、米国で25年に多目的スポーツ車SUV)のEVを生産する方針を示した。EVの現地生産は初めてとなる。 

 

 

ホンダも26年の販売を目指してEVの現地生産を始める。米オハイオ州のメアリズビル工場で、2つある生産ラインのうち1つを改修。ガソリン車とハイブリッド車(HV)の生産を続けながらEVの生産体制を整える。 

 

米国では22年8月、EVに税優遇する歳出・歳入法(インフレ抑制法)が成立した。EVなどの新車を購入する消費者に対し、最大で7500ドル(約100万円)を税額控除する。支援の対象は北米で組み立てられた車のみとなるため、世界の自動車メーカーがこぞって投資に動く。 

 

海外勢では現代自動車グループ傘下の起亜自動車が、開催中の自動車見本市「ニューヨーク国際自動車ショー」で24年から米国でEV生産に乗り出す方針を示した。フォード・モーターフォルクスワーゲンVWは車載電池工場を新設する。 

 

EV分野で日本勢の出遅れは鮮明だ。英調査会社LMCオートモーティブによるとトヨタ、ホンダなど日本の自動車大手5社の北米の生産台数は22年末時点で441万台。このうちEV比率は0.4%にとどまる。 

 

29年時点で日本車5社の北米EV生産台数は95万台と22年比で60倍に増える見通しだが、北米の生産台数に占めるEV比率はその時点でも2割程度。欧米勢は29年には生産の3割をEVが占め、日本勢の3倍となる269万台を生産する計画だ。 

 

 

日本の自動車メーカーは1980年代に激化した日米通商摩擦を背景に米国で現地生産を加速してきた。HVで先行したこともあり、EVの生産・販売体制は整っていない 

 

調査会社のマークラインズによるとトヨタなど日本車6社の米国での販売シェアは22年で3割強あるが、EVに絞ると販売車種は日産自動車の「リーフ」などに限られる。米コンサルティング大手、アリックスパートナーズの鈴木智之マネージングディレクターはEVシフトを進めるには「エンジン車生産で築き上げた調達網とは異なる取引先を現地で広げなければならない」と指摘する。 

 

各国でEVを巡る投資競争が激しくなるなか、今後は開発費や労務費の増加も懸念される。トヨタ宮崎洋一副社長は「米国の自動車産業は人々の製造業離れや構造的なコスト増など、大きな課題に直面している」と話す。 

 

米フォードはEV事業の23年12月期の調整後EBIT(利払い・税引き前損益)が30億ドル(約3900億円)の赤字になる見通しだ。新型モデルや工場に多額の資金を投じており赤字が拡大する。ゼネラル・モーターズは3月、早期退職の募集を始めコスト高への対応を急ぐ。「高い給与を出さないと北米で人材を確保できず、(EVなどの)車両価格を引き上げざるを得なくなる」(アリックスの鈴木氏) 

 

いち早く効率的な生産・販売体制を築いた専業メーカーの米テスラは、米国で1月に続き再び一斉値下げに踏み切った。上級2車種に加え、売れ筋のセダン「モデル3」と多目的スポーツ車SUV)「モデルY」も値下げした。値下げ幅は最大6%で、シェア拡大をもくろむ。価格面での競争も激しくなるなか、日本勢のEVシフトは一筋縄ではいかない 

 

(川上梓、田辺静、松本晟) 

 

<キーワード> インフレ抑制法 (IRA) 
▽…2022年8月に米国で成立した法律で、財政赤字の削減により過度なインフレを抑制することに加え、それを原資としたエネルギーや気候変動の分野に総額3690億ドル(約49兆円)の資金を支援することが主な内容。
▽…自動車では北米で最終的に組み立てられ、さらに材料や部品の一定割合を指定地域で調達、製造したEVなどの電動車に優遇措置を適用する。米国内のEV普及や中国製の電池材料排除が目的とみられている。
▽…巨大な市場を持つ米国で大きい優遇を受けられることから、日欧の自動車メーカーが米国内へEV組み立てや電池工場を新設、増設する動きが活発になっている。生産の米国移転や部品構成の変更、日欧の生産拠点空洞化への懸念もある。 

 

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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC065JI0W3A400C2000000/ 

(続く)