ALPS処理水放出と習近平の凋落(8)

習近平政権としても「いつ中国人民が政府にたてついてくるのか」と、戦々恐々としている状態と推定できる。 

 

だから、外部に不満のはけ口を至急設ける必要があったのである。 

 

・・・・・・と書いておいたが、この小生の推論は、あながち的は外していないようだ。 

 

 

次の近藤大介氏の論考を参照願いたい。 

 

これはかなり長い論考なので、その前に、小生なりの簡単な要約を載せておこう。 

 

 

ALPS処理水放出に過剰反応する理由として、次の五つを上げている。 

 

(1) 中国の美しい環境を汚染する日本は悪い国で、中国は良い国だと宣伝 

 

(2) だから日本国民も岸田政権を批判、政府と人民の分断を画策 

 

(3) 中国の海が汚されると喧伝し、人心を外に向けさせている 

 

(4) 中国経済は極端の悪化しているため、人民の怒りを日本に向けさせる 

 

(5) 王毅外相の戦狼外交と経済外交を重視する李強首相との権力闘争の面もある 

 

と言った理由で、中国(習近平政権)は日本のALPS処理水の放出を、自国の政治闘争の具として利用しているのである。だから、早々とは終らないものである、と言ったところである。 

 

 

https://gendai.media/articles/-/115441 

中国はなぜ「日本叩き」にここまで必死なのか…? ALPS処理水放出に“過剰反応”する「5つの理由」 

近藤 大介『現代ビジネス』編集次長 プロフィール •2023.08.29 

 

中国の「日本叩き」が喧(かまびす)しい。福島第一原子力発電所ALPS処理水トリチウム以外を取り除いた冷却水)を、8月24日午後1時から、太平洋に放水している問題だ。 

 

たしかに、まだ記憶に新しい12年前、福島第一原子力発電所の事故を起こした東京電力という会社は、大問題である。東電がその責任を、半永久的に免れないことは、論をまたない。とはいえ、先週からの中国の反応は、日本から見ると、いささか過剰だ。経済産業省の資料によれば、中国の原発では、もっと濃度の高い処理水を、平然と海中に放出しているのだから。 

 

なぜ中国は、かくもヒステリックなのか? 縷々思い連ねるに、そこから浮かび上がってくるのは、「5つの理由」である。以下、詳細に見ていきたい。 

 

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【1】中国の「正義」をアピール 

 

日本で今回の処置を決めたのは、いまの岸田文雄政権ではなく、前任の菅義偉政権である。2021年4月13日菅首相が「海洋放出を2年程度の後に開始します」と宣言したことがきっかけだ。 

 

実は中国は、この日から一貫して反対してきた。同日の外交部定例会見では、「戦狼外交官」と呼ばれた趙立堅報道官(現在は左遷されて外交部国境海洋事務局副司長)が、早くも怒りをあらわにしている。 

 

「日本の福島の原発事故の核廃水処理問題は、国際的な海洋環境と食品の安全、人類の健康に関わることだ。国際的な権威ある機関や専門家は、福島原発トリチウムを含む廃水を海洋に排出することは、周辺国の海洋環境と公衆の健康に影響を与えると、明確に指摘している!」 

 

この時点では、「ただ反対を唱えている状態」だった。かつ隣国の文在寅ムン・ジェイン)政権は、中国以上に声高に、怒りの声を上げていた。 

 

それから2年あまり経って、日本では東京電力の「処理水保管タンク」の水量が98%を超え、岸田政権が8月後半に放出を始めると決めた。7月4日には、来日したIAEA国際原子力機関ラファエル・グロッシ事務局長が、岸田首相に対して、安全にお墨付きを与える「包括報告書」を手渡した。 

 

すると中国は、7月18日に李強首相が主催して、北京で全国生態環境保護大会を開いた。共産党のトップ7(党中央政治局常務委員)が全員出席する重要な大会と位置づけ、習近平主席が重要講話を述べた。 

 

「今後5年は、麗しい中国を建設するのに重要な時期だ。(習近平)新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想を、深く貫徹していくのだ。人民が中心であることを堅持し、『緑水と青山はまさに金山銀山』(2005年8月に当時の習近平浙江省党委書記が同省湖州を視察した際に唱えた言葉で、現在は習政権の生態保護のスローガン)の理念を固く樹立、実践していくのだ。 

 

麗しい中国の建設を、強国建設と民族復興の突出した位置に置き、都市と農村の住居環境の明瞭な改善を推進し、麗しい中国建設に明確な成果を作り出していくのだ。ハイレベルの生態環境をハイレベルの発展の支えとし、人と自然の和諧共生の現代化を、いち早く推進していくのだ…… 

 

こうして、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想」を、改めて採択。その中で「藍天・碧水・浄土」を、「三大保衛戦」として、強く推進していくと定めたのだった。 

 

「碧水」とは、中国の自然な碧(あお)い海洋や河川を保持しいくということだ。そしてそこに、福島原発の処理水中国の海域に流入してくるということが、引っ掛かってくるのだ。 

 

注、藍天(らんてん)とは、限りなく美しい(天)青く澄んだ冬の空の色、を言うようだ。) 

 

そのため、中国では連日、福島の処理水の問題を報じているが、「悪の日本」を報じる前に、必ず「正義の中国」をアピールしている。 

 

例えば、「習近平主席は南アフリカで行われているBRICS(新興5ヵ国)首脳会議に出席して、『人類運命共同体』を唱え、世界の称賛を浴びた」というニュースが先に来て、その後に「一方、日本では福島の核汚染水が……」となるのだ。さらにその後には、「アメリカではハワイの山火事の後処理が進まず……」と、「悪のアメリ」が続くので、「3点セット」とも言える。 

 

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ちなみに、先週(8月)24日の午後1時に、日本が海洋放出を開始するや、日本と1時間の時差がある中国では、CCTV(中国中央広播電視総台)で放映中のニュース番組『新聞30分』(12時~12時半)が、「緊急ニュース」として伝えた。 

 

中国のテレビ番組は、それがニュースだろうが、ドラマ、バラエティ番組だろうが、すべて国家広播電視総局の検閲を受けないと放映できない。そのため、基本的に「生放送」「生中継」はない 

 

その習慣を破ったのは、2011年3月11日に日本で起こった東日本大震災である。この時、100人を超える中国のマスコミが現地に入り、ほとんど初めて「生中継」を開始した。当時、北京に住んでいた私は、中国のテレビもようやく生中継、生放送の時代を迎えたと、感慨深げに観ていたものだ。 

 

ところが、2013年に「習近平新時代」に入ると、「新鮮な空気窓」は閉じられ、再びもとに戻っていった。それどころか、CCTVのナンバー2以下、幹部や看板記者らが次々にひっ捕らえられ、CCTV習近平主席の「偉大さ」を延々と宣伝する「習近平礼賛テレビ」と化していった。 

 

そんなCCTVが、福島の件に関して「生放送」「生中継」したということは、よほどのビッグニュースと捉えているということだ。しかも福島にわざわざ「特別取材チーム」を送り込み、ヘリコプターからの映像もふんだんに使っていたから、おそらくチャーターまでしたのだろう。 

 

そういうことは、前述の国家広播電視総局と、さらにその上部組織である中国共産党中央宣伝部の指示がないと行われない。 

 

現在の国家広播電視総局長は、中国信息通信研究院長を務めていた通信技術者出身の曹淑敏(女性)で、党中央宣伝部副部長を兼務している。また中央宣伝部長は、習近平主席が共産党の中央党校校長時代(2008年~2012年)に副校長として仕え、覚えめでたくなった李書磊である。 

 

つまり、習近平主席の意向か、もしくは「トップの意向を忖度した」李書磊部長か曹淑敏局長から、CCTVに「特に強調して報道するように」という指示が出たことが推測できる。それは、「正義の中国」と「悪の日本」を対比させるということに他ならない。 

(続く)