ALPS処理水放出と習近平の凋落(13)

ようやく涼しくなってきたのに、とにかく息苦しい秋ですよ」 

 

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今夏に北京の大学を卒業した青年は、暗い表情でこう漏らす。 

 

国慶節の7連休が、今年は『政府のプレゼント』で8連休とか言われても、正直言ってピンと来ないですね。だって私を含めて多くが、卒業後に就職先がなくて、『卒業即失業』となったんですから。つまり、365連休中なんです」 

 

若年層(16〜24歳)の失業率は、6月に過去最高の21.3%を記録。1158万人もの大学生が卒業した7月は、ついに50%を超えるとも囁かれていた。だが結局、国家統計局は、「8月分からは若年層の失業率は公表しない」と決定。いまではその正確な数値さえわからない。 

 

唯一のガス抜きが海外旅行で、国民の旅行を担当する中国文化観光部は、8連休中、「友好国への旅行」を奨励した。 

 

だが皮肉なことに、「福島原発の核汚染水放出」(中国外交部の表現)で「敵対国筆頭」のはずの日本への旅行が、大人気となっている。9月26日に発表された『2023年10・1連休出国予測報告』によれば、人気旅行先のトップ5は、日本、タイ、韓国、マレーシア、シンガポールの順。「行ってはいけない」日本が、堂々と1位につけているのだ。 

 

マイナスだらけの数値 

 

実際、9月末から日本各地で中国人観光客を多く見かけることとなった。銀座で買い物をしていた中国人女性グループの一人が語る。 

 

「日本を訪れたのは10年ぶりです。当時の中国はPM2.5の大気汚染が深刻で、日本旅行は『肺を洗う旅』と言われました。今回はさながら、『脳を洗う旅』ですね(笑)。中国の景気は最悪だし、社会全体が鬱々としているから、日本旅行は最高のストレス解消ですよ」 

 

中国経済は、丸3年に及んだ「ゼロコロナ政策」の後遺症にもがき苦しんでいる。最新の経済指標の一例を示すと、以下の通りだ。 

 

・7月までの全国工業企業利益、前年同月比マイナス15.5%(特に民営企業が沈滞) 

 

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・8月のCPI(消費者物価指数)、前年同月比プラス0.1%(前月のマイナス0.3%から持ち直したものの、依然としてデフレ傾向 

 

・8月の新築住宅価格指数は70都市中、52都市で前月より下落(各地に「鬼城(ゴーストタウン)」が出現中 

 

・7月の不動産販売面積、前月比マイナス46%(東京23区の面積以上が売れ残りの在庫と化している) 

 

・8月の貿易額、前年同月比マイナス8.2%(輸出マイナス8.8%、輸入マイナス7.3%で世界的な「中国離れ」が顕著) 

 

中国経済崩壊の指標は 

 

中国の大手証券会社アナリストが語る。 

 

「政府は『V字回復』を喧伝しているものの、実際には『L字』(悪化したまま)、もしくはI字(悪化し続ける)かもしれません。『中国の日本化』と言えば分かりやすいでしょう。前世紀末のバブル経済崩壊後の日本とソックリだからです。 

 

現在の不動産バブル崩壊が、金融業界に波及し、地方銀行が倒れ始めた時が中国経済崩壊の時だと見ています。政府はようやく手を打ち始めましたが、いまだ明確な効果は表れていません」 

 

このアナリストは、特に「二つの指標」に着目していると言う。 

 

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「それは株価為替です。この二つは、中国の粉飾が囁かれる公式統計の中でも、比較的ウソをつけないからです。 

 

株価は、現在3100前後の上海総合指数が3000ポイントを割り込んだ時が、中国経済危険水域です。また為替は、現在1ドル≒7.2人民元のレートが、『超八』(8を超える)超元安局面に入ったら、世界が中国を見放したと見るべきでしょう」 

 

不動産に関しては、中国では俗に「金九銀十」と言われる。例年、9月が不動産販売のピークで、連休及びその後の10月が、2番目に盛況の時期という意味だ。 

 

ところが、今年の連休前の9月28日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。不動産大手、恒大集団の株式の取引を停止する、と香港証券取引所が発表したのだ。 

 

恒大は、年間売り上げ7000億元(約14兆円)、従業員20万人という巨大不動産会社だったが、一昨年末にデフォルト(債務不履行)に陥った。以後、本社のある広東省などが立ち入って、傘下の8グループの整理を行ってきた。それでも今年6月末時点で、3280億ドル(約49兆円)もの巨額負債を抱えている。 

 

この前編記事では中国で起こっている経済の崩壊の実情について解説してきた。続く後編記事『粛清しても無駄…習近平が君臨する限り「中国の経済不況」は終わらないと断言できる「ほんとうの理由」』ではそれらの企業のトップの動きや、習近平の動きなどについて引き続き解説していく。 


https://gendai.media/articles/-/117333 

(続く)