その場合には、日本も戦場となる。事実、中国は台湾侵攻と同時に、日本への攻撃を開始する、と思って対処をしていなければならないのだ。
問題は、今年2023年4月30日の、駐日中国大使の呉江浩の日本記者クラブでの記者会見での発言だ。
呉江浩は「台湾問題」に話が及ぶと、「日本民衆は火の中に連れ込まれることになる」と恫喝した。日本(の基地)へ「核兵器を打ち込むぞ」と恫喝したのだ。
これは呉江浩一人の考えによる発言ではない。習近平政権全体のコンセンサスである。中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長までもが、「日本は米国の属国であるので、まともに話をしてもしょうがない」との趣旨の発言をしているのである。
日本とそれなりに仲良く付き合っていこうとの気持ちは、持ち合わせていない、とみなければならないのだ。
だから、日本は反撃・報復する手段を、至急構築し実用化しておかなければならないのである。
それは、核弾頭を装備した中・長距離ミサイル(弾道弾)を、抑止力として装備・実戦配備しなければならないと言うことだ。当分は中距離弾道弾(IRBM)で良しとすべきで、中国の暴挙を抑止するために早急に開発・実用化する必要がある。
習近平政権が軽んじる日本 「火の中」発言は本気か
編集委員 高橋哲史
日経ヴェリタス2023年6月4日 4:00
呉江浩・駐日中国大使の記者会見は波紋を広げた=ロイター
【この記事のポイント】
・中国要人に日本を独立国扱いしないような発言相次ぐ
・底流には「日本は米国の言いなり」と属国視する考え
・米国との関係改善が進まず日中関係も「冬の時代」に
中国の習近平(シー・ジンピン)政権は日本との関係が悪くなってもかまわないと考えているのか。そう思わざるを得ない発言が相次いでいる。
「中国は1951年のサンフランシスコ講和条約を最初から認めていない」。5月26日の日経フォーラム「アジアの未来」で、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長が唐突に話し始めると、会場の聴衆はけむに巻かれたような表情をみせた。
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「日本は米国の言いなり」
むりもない。第2次世界大戦に敗れて連合国の占領下にあった日本は、サンフランシスコ条約で主権国家としての地位を取り戻した。それを否定するなら、日本を独立国とみなしていないことになる。
たしかに、中国はサンフランシスコ講和会議に招かれておらず、条約を「最初から認めていない」のは歴史的な事実だ。だとしても、いまなぜそれを改めて持ち出すのか。
同じセッションに参加した九州大学の益尾知佐子教授が「発効から70年たったサンフランシスコ条約を認めないというのは、中国が現在の国際秩序を打破しようとしているように聞こえる」と指摘すると、楊氏は「古いから合理的だというのは間違いだ」と開き直った。口を滑らせたわけではない。周到に準備した発言だ。
北京に駐在していたころ、中国の外交官から「日本は米国の属国みたいなものでしょ」と皮肉られたことがある。米中関係がかつてないほど険悪になるなか、中国側に日本を「米国の言いなりだから話してもしょうがない」と軽んじる空気があるのは確かだ。
物議をかもした呉江浩・駐日中国大使の発言も、その延長線上にある。
「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」。呉氏は着任して間もない4月末の日本記者クラブでの記者会見で、台湾問題に話題がおよぶといきなりこう言い放った。
「中国分裂を企てる戦車」とは米国を指すのだろう。日本が米国にくっついて台湾問題に首を突っ込めば、ただでは済まない。そう言いたかったのだろうが、日本の国民に危害を加えるかのような言いぶりは脅しにしか聞こえない。対等な「独立国」に対して使うべき言葉ではなく、林芳正外相が正式に抗議したのは当然だ。
あすは我が身
「しばらく中国には行きたくない」。最近、中国とのつき合いが長い日本人のビジネスパーソンや研究者に会うと、そんな話題が必ず出る。いうまでもない。3月にアステラス製薬の中国法人に勤める50代の日本人男性がスパイの疑いで拘束されたからだ。
男性はなぜ捕まったのか。中国側は理由をいっさい明かさない。7月に反スパイ法の改正が施行されれば「スパイ」の定義はこれまで以上にあいまいになる。「あすは我が身」と中国で仕事をする日本人は身構える。
経産省は中国を念頭に、7月下旬から最先端の半導体製造装置など23品目の輸出規制を強化する。バイデン米政権の強い要請に応じた。習近平政権は「また米国の言いなりか」と不満を募らせる。
中国は5月下旬、米マイクロン・テクノロジーの製品を重要な情報インフラの調達から外すと発表した。米国が発動した半導体の輸出規制に対抗した措置だ。日本企業にも同様の制裁を加えないか。楽観はできない。
「岸田文雄政権の(対中政策での)後退ぶりはあっけにとられる」。5月下旬、中国共産党系メディアの環球時報に、日本を厳しく批判する清華大学の劉江永教授の論文が載った。
習近平政権は米国との関係改善に幻想を抱かなくなり、その同盟国である日本にももう気兼ねしなくていいと考えているのだろう。でなければ、日本の民衆を「火の中に」などという発言が飛び出すはずはない。
日中関係は冬の時代に入ろうとしている。
[日経ヴェリタス2023年6月4日号に掲載]
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ひとこと解説
「戦わずして勝とう」とする中国は、法律戦・心理戦・情報戦を3戦として平時から駆使、呉大使の発言もそれを実行したものと考え、日本はさらに毅然とした対応が必要だったと分析されます。アジア安保会議ではオースティン国防長官との会談を李国防相が拒否しましたが、5月にサリバン大統領補佐官と王政治局員が会談した際から予想された事態でした。バイデン氏が副大統領だった時からの側近であるサリバン氏は、5月にはサウジのムハンマド皇太子とも会談。ロシアのプーチン氏の側近とも極秘協議しているとされており、難しい相手との唯一機能している重要なチャンネル役も果たしています。日本にもこういう人物が必要な局面が到来しています。
2023年6月4日 7:02253
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK271670X20C23A5000000/?n_cid=NMAIL006_20230604_A
(続く)