ALPS処理水放出と習近平の凋落(38)

バイデンの目標「衝突管理」は達成された 

ここでの「衝突の管理」は当然、軍事衝突を未然に防ぐための「管理」を重点中の重点とするものであるが、そのためには米中間の軍対話、すなわち両国軍の間の対話・意思疎通が必要不可欠であるのは自明のことである。 

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実際、今回の首脳会談に臨んで、バイデン政権が一番の達成目標としているのはまさに、昨年8月のペロシ下院議長訪台以来中国側によって中断されたままの中国軍との対話の再開である。 

 

11月12日、サリバン・米国家安全保障担当大統領補佐官は米CNNのインタビューで、予定される米中首脳会談について「バイデン大統領は軍同士の対話を再構築したいと考えている。これは最も重要な議題だ」と述べた。そして首脳会談前日の14日、バイデン大統領も「危機が起きた時に互いに電話で話せるような通常の関係に戻すこと。軍同士のつながりを再確認することだ」と述べ、軍対話の再開多大な期待を寄せた。 

 

そして首脳会談が終わったところで、双方の公式発表から見れば、会談の結果はまさにバイデン大統領と米国側の期待する通り、「軍対話再開」は両首脳間の最重要な合意事項となった。それを受け、日本の大新聞を含めた世界のマスコミは揃って「軍会話再開合意」のタイトルで会談の結果を報じたが、バイデン大統領の一番目標は見事に達成された。 

 

また、首脳間ホットラインの設置についても双方が合意したから、バイデン大統領が望む「危機が起きた時に互いに電話で話せるような通常の関係に戻すことも実現できた。 

 

米側は「非常に満足している」 

米国側の関心事の一つである「フェンタニル問題」に関しても、米側の発表によると、会談において両首脳は、米国で薬物過剰摂取問題の主な原因となっている医療用麻薬フェンタニルの供給源への対処について協力することで合意したという。 

 

こうしてみると、首脳会談の結果は米国側とバイデン大統領にとってはまさに望む通りのものであって、バイデン大統領が一番欲しがるものを手に入れて高笑いしていところであろう。 

 

国家安全保障会議NSC)のカービー戦略広報調整官11月16日のオンライン記者会見で、バイデン大統領が習主席との会談内容に非常に満足している」と述べたが、それは大統領と米国側の本だと見るべきであろう。 

 

 

習近平の要求は「台湾」と「経済制裁」だったが 

その一方、習主席と中国側は首脳会談に臨んで何を目標とし、そして何を得たのか。まずは中国側の訴求に関しては、それは、16日付人民日報が一面掲載の、首脳会談に関する公式発表を一読すれば分かる。 

 

中国側の発表では、習主席は会談の中で、1)米国側への具体的要求としてまず台湾問題の重要性を強調した上で、「台湾を武装させることを止め、中国の平和統一を支持する」ことを求めた。さらに、2)米国政府による対中国輸出制限・一方的な制裁措置を批判し、それらを撤回することを求めた。 

 

以上の2点はまさに習主席と中国側の最大の訴求と要求であったが、会談後の米中両国の公式発表と各メデイアの報道を見ると、この二つの要求に対するバイデン大統領の反応は全くのゼロ回答であることが分かる。 

 

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中国側の発表では、バイデン大統領が台湾問題に関して、「台湾独立を支持しない」との言葉を口にしたというが、それは米国政府の今までの常套文句の繰り返しであって何の新味もない。一方、中国側の発表から見ても、習主席が強く認めた「台湾を武装しないこと」と「中国の統一を支持すること」に対し、バイデン大統領は全くの無反応、黙殺の形で一蹴したと思われる。 

 

対中国輸出制限・一方的な制裁措置の撤回」については、中国側の発表でもバイデン大統の口からの具体的言及(すなわち言質)は一切ない。つまりバイデン氏は習主席の求めに一切応じなかったことが分かる。 

 

つまり習主席は、首脳会談に当たってはバイデン大統領の求めに応じて首脳ホットオンラインの設置や軍対話再開などで米国との合意に達したものの、自らの要求するものに関してはバイデン大統領から何一つ合意を取り付けることができなかった。 

 

数ヶ月前から首脳会談を成功させるために、習主席と中国側はあらゆる機会を利用して米国に関係改善への意欲と熱意を示したり、米国からの譲歩を引き出すために強請作戦も展開したりしたが、結果的には媚びも強請りも何の効果もなく、習近平にとっての米中首脳会談は、譲歩する一方においては何の成果もあげられない大失敗となった。 

(続く)