世界自動車大戦争(57)

しかもゴーンは、レバノンのサアド・ハリーリ暫定首相ともコネがあるようで、レバノンでは保護が受けられる可能性は高いと言う。

 

だが現在のレバノン政情不安状態であるので、いつその政治闘争に巻き込まれないとも限らない、と言う恐れもあるようだ。

 

しかも今レバノンは荒れている。激しいデモが連日起こっている、と言う。これではゴーンも安息状態とはいえないのではないのか。

 

 

ゴーン、レバノンでも安息無し

投稿日:2020/1/7

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

 

【まとめ】

・ゴーン被告、レバノンでも当局に厳しい扱いを受けるかもしれない。

レバノンの国法に違反した容疑で刑事訴追される可能性あり。

・国際的な注目度を利用され、政治抗争に巻き込まれる可能性も。

 

日本での保釈中に国外に逃亡し、レバノンに入国した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告は母国のレバノンでは好待遇を受けるという予測が大方である。しかし一方では、なおレバノンでも当局に厳しい扱いを受ける可能性も指摘されている。別件での違法行為を追及されることと、治的に利用されること、という二つの危険なシナリオだという。


写真)レバノンの国旗

出典)pixabay

 

ゴーン被告はレバノンに生まれ育ち、国籍も有する。アルゼンチン(ブラジルが正しい)やフランスの国籍も保持するが、日本との犯罪逃亡者引き渡し協定もないレバノンでは政府代表がすでに日本への送還はしないとの方針を述べた。その結果、同被告にとっては快適な暮らしの見通しも生まれてきた。日本での犯罪の訴追もレバノンでは白紙に戻る展望さえみえてきたわけだ。

 

ところがレバノンの首都ベイルートからのフランスのAFP通信の報道などによると、ゴーン被告には思わぬ難関や災難もありうるという。

その第一はゴーン被告がレバノンでの国法に違反した容疑で刑事訴追される可能性である。

 

レバノンイスラエルといまも戦争状態にあり、自国民のイスラエル入国を法律で禁止している。ところがゴーン被告は2008年にフランスのルノー社の代表としてイスラエルを訪れ、政府要人らと会談した記録がある。この時もレバノン国籍を保持していた。

 

レバノンの首都ベイルートではこの事実を重視した地元の法律家グループが1月2日、検察当局にゴーン被告の起訴を求める陳情書を提出した

同グループの代表のアリ・アバス弁護士はAFP通信に「敵国としてレバノンを軍事攻撃し、多数の死傷者を出したイスラエルレバノンの国法を破って訪れたゴーン氏をヒーローのように歓迎することは法治国家として許容されるべきではない。レバノンの法律を適用し、裁かれるべきだ」と語った。

 

ゴーン被告は2008年当時、イスラエルとの間で電気自動車の開発を協議するため、訪問したという。時効が適用される可能性もあるが、最悪の場合、国家反逆罪で懲役15年の刑にも相当しうるとされる。

 

検察当局はこの陳情書を告発として受理して、法的な判断を来週までにも下すことになったという。その結果、場合によってはゴーン被告はレバノンでまたまったく別の罪状により、刑事被告人になる可能性もあるわけだ。

 

ゴーン被告にとってのレバノンでの第二の危険同国の政治闘争に巻き込まれ、人質のように利用される可能性である。同じAFP通信のベイルートからの報道によると、ゴーン被告はレバノンの現在の外相ジブラーン・バシールと親しい関係にあり、同外相の義父が現大統領のミシェル・アウン氏であるため、現政権とのきずなが強く、保護を受けられる見通しは高い。

 

しかしレバノンの政治はイスラム教派、キリスト教派、同じイスラム教でもシーア派スンニ派、さらに親シリア派、反シリア派、テロ組織のヒズボラなど多数の敵対関係にある勢力が長年、激しい争いを続け、不安定をきわめる。現在のサアド・ハリーリ内閣も挙国一致のスローガンの下に結成されたが、なお激しい抗争が絶えない。

写真)サアド・ハリーリ首相

出典)flickr photo by libanlive

 

こうした政治情勢下では国際的な注視を集めるゴーン被告の処遇が政治抗争に巻き込まれる危険もあるわけだ。同被告がレバノン内部の政治勢力間の権力闘争の道具に使われる可能性を指摘する声もある。

 

レバノン戦略問題研究所」の所長で政治学者のサミ・ネーダー氏はAFP通信に対して「ゴーン氏の身柄の扱いが各政治勢力の間での『政治フットボール』となる可能性がある。次期政権の権力掌握をめぐり、ゴーン氏の処遇を政治交渉の材料に利用する動きが出てきてもおかしくない。国際的な注目を集めるゴーン氏の扱いにはそれだけの政治価値があるわけだ」と論評した。

 

ゴーン被告にとってレバノンもまた安住、安泰の地とはならない展望もこのようにありうるわけである。

 

トップ写真)カルロス・ゴーン被告

出典)flickr photo by Fábio Cavalcanti Ferreira

 

https://japan-indepth.jp/?p=49758

 

 

 

レバノンでは現在、連日のように反政府デモが続いている。

 

 

 

【大内清の中東報告】反政府デモ続くレバノン 「ゴーンも同じ」と既得権益層の腐敗に反発

2020.1.19 18:31 国際 中東・アフリカ

【4面】ベイルート 18日夜、デモ隊と治安部隊が衝突したベイルート中心部には、催涙ガスが立ち込めた(大内清撮影)

 

 中東レバノンで、反政府デモによる混乱が続いている。デモに参加する若者らの原動力は、政治家ら既得権益層に根付く汚職体質や縁故主義への怒り。現場では、同国に逃亡中の日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告も「腐敗した富裕階級」の一人として非難する声があった。(ベイルート 大内清)

 

 18日夜、ベイルート中心部で、数百人のデモ隊が治安部隊と衝突していた。路面をはがして砕いた石を投げつける若者らに、治安部隊は放水銃や催涙弾で応戦。あたりには濃霧のようにガスが立ち込めた。この夜の負傷者は少なくとも220人に上った。

 

 現場は、議会や政府施設のほか、欧米のブランドショップや高級ホテルも立ち並ぶ、ベイルートで最も華やかなエリアだ。デモ参加者らは昨年10月以降、富裕層の象徴ともいえるこの一帯周辺で道路封鎖などの抗議活動を展開。同様の動きは全国に広がった

 

 当初からデモに参加してきたというアリーさん(28)に日本の記者だと名乗ると、「自分たちの利益しか考えない腐敗した連中がレバノンをダメにしている。ゴーンもその仲間だ。日本から逃げればかくまってもらえると思ったのだろう」と語り始めた。

 

 ゴーン被告は逃亡後の今年初め、レバノン人の弁護士グループから告発を受けた。日産在職中の2008年にイスラエルを訪問したことが、イスラエルのボイコットを定める法律に違反している-との訴えだ。

 

 「これがもし僕なら、即座に刑務所行きだ。でもゴーンは悠々と暮らしている。これがレバノンの現実さ」。アリーさんは、自分たちの抗議運動とゴーン被告をめぐる事件は「根っこは同じ」だと話す。

 

 レバノンで若年層の失業率は25%に上るとされる。通貨下落やインフレとも相まって、一般市民の生活は苦しさを増している。その一方で富裕層は、ゴーン被告のように複数の国籍を使い分け、海外に資産を移していることも珍しくない。

 

 同国では昨年10月、デモの激化を受けて当時のハリリ首相が辞任を表明。その後は、正式な内閣が不在の「政治空白」が続いている。

 

https://www.sankei.com/world/news/200119/wor2001190015-n1.html

 

 

 

ゴーンは英雄として、レバノンには迎えられたと言うが、レバノンの社会情勢は現在、「深刻な経済低迷」と「腐敗した政治への不満」のために、相当混乱し反政府デモが頻発している。そのため昨年の10月下旬にハリリ首相が辞任を表明したが、その後継はまだ決まっていない、と言う。


(続く)