世界の流れは、EV化(4)

遅かれ早かれ、米中では対抗措置が検討されることになるであろう。

 

 

 

2035年にHV販売禁止」方針を打ち出すEU、“日系メーカーつぶし”に日本はどう対応するか

  

 

2017年のフランクフルトモーターショーにて。プリウスプラグインハイブリッド車PHV)が展示されている様子。 

 

欧州連合EU)の執行機関である欧州委員会714日、気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書(コミュニケーション)を発表した。

 

とりわけ日本の報道で注目されたのが、2035年までにEU域内の新車供給をゼロエミッション車温室効果ガスを排出しない自動車)に限定するという野心的な方針だ。

 

トヨタ自動車など日系メーカーが得意とするハイブリッド車HV)やプラグインハイブリッド車PHV)は、このゼロエミッション車から除外される。

 

つまりEU2035年以降、いわゆる電気自動車(EV、正確にはBEVと呼ばれる二次電池式電気自動車)と燃料電池車(FCV)しか新車の登録を認めないという考えを鮮明にしたわけだ。

 

製品のライフサイクル(生産から廃棄までのプロセス)を考えた場合、HVPHV温室効果ガス排出量はEVFCVに劣らないどころか、むしろ優れるとも言われている。

 

にもかかわらず、EUHVPHVを域内の市場から「排除」するのは、日系メーカーつぶしにほかならないというのが、日本での大方の受け取られかたではないだろうか。

 

そうした側面は残念ながら否定できない。

 

日本はHVの普及で温室効果ガスの削減を志向し、一定の成果を見ている。他方でEUは、燃費が良い軽油を用いるディーゼル車の普及で同様の効果を目指したが、いわゆる「ディーゼルゲート」(主要な欧系メーカーによる温室効果ガス排出削減不正問題)を受けて、この戦略は完全にとん挫した。

フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス検査不正を伝えるBBCの報道(記事は2015年当時のもの)。© 撮影:編集部 フォルクスワーゲンディーゼル排ガス検査不正を伝えるBBCの報道(記事は2015年当時のもの)。 

 

EV化そのものは世界的なメガトレンドだ。このトレンドで主導権を握るという観点からも、欧州委員会2035年までに域内市場からHVPHVを排除する方針を示したわけだ。

 

EV化は気候変動対策の一手段であるにもかかわらず、それを「自己目的化」している裏には、欧州委員会の技術覇権に対する、一種のエゴイズムが存在する。

 

EU内でも議論が交錯する「ガソリン車」の排除

欧州委員会が今回示したのはあくまで「政策文書」であり、これをもとにEU加盟各国の議会とEU立法府である欧州議会での協議・調整を経て、最終的に立法化される。

そのため、現在出ている欧州委員会の素案がそっくりそのままEU法として効力を持つことはまずありえない。加盟国の意向が強く反映された形で修正されることになる。

© REUTERS/Yves Herman 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長。

 

ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長の凛とした会見の姿からは、EU首脳陣のEVシフトに関する強い意志がうかがえる。

しかし、加盟国の温度差はかなりバラついているというのが本当のところだ。

 

例えばフランスの場合ルノーのコンパクトEV「ゾエ(ZOE)」が好調なこともあり、2035年以降もPHVを新車として登録できるよう求めている模様だ。

 

それに所得水準が低い中東欧諸国の場合、価格が高いEVの普及が容易には見通せない状況にある。

 

また、EVの場合、充電ポイントの整備が必要不可欠となるが、それも財政に余力がない中東欧諸国では進んでいない。EU復興基金からの財政支援が見込めても、それだけでは充電ポイントの整備など進まない。

ルノーのコンパクトEVZOE」。オートカージャパンは、英国での補助金を含めた価格は28495ポンド(約432万円)と報道している。最大航続距離は394km   

 

産業界欧州委員会の方針に反発している。ドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長は、欧州委員会が政策文書を公表する直前の77日に行われた記者会見で、ガソリン車の製造ラインが失われることで20万人近い雇用が失われる可能性などを指摘、急速なEVシフトを掲げる欧州委員会に対して慎重な見解を示した。

 

高い球をあらかじめ投げて、そこから現実的な解を探る。交渉戦術にあたっての常とう手段ではあるが、各国のスタンスの違いや自動車メーカーの反応を見ていると、フォン・デア・ライエン欧州委員長らEU執行部が投げた球は、「いささか高過ぎた」印象は否めない。

 

そのため、立法化までの道のりには、かなり紆余曲折がありそうな予感を禁じ得ない。


(続く)