世界の流れは、EV化(3)

マツダはどうする? エンジンを捨てるホンダはさらに加速か

 トヨタは全方位で開発を行っているから、電動化計画の詳細が変更になっても対応はできるだろう。ではトヨタ以外の日本メーカーはどうか? ホンダ40年に100EV化することを三部敏宏社長が明言している。それを35年に前倒しすることについても対応できると答えている。

 新興国ではエンジン需要が残るだろうから、すべてをEVにしなくても実際には問題ないだろうし、ホンダが本気になれば、それは実現できるのでは、という気さえしてくる。しかも三部社長もホンダの名作エンジンを手掛けたエンジニアであり、そんな人物がエンジンをスッパリ諦めてEV一本で挑むとなれば、それは相当な覚悟なのだということが伝わってくる(もっともホンダもFCVeフューエルの可能性も諦めていないようだが)。

 マツダ30年にEVの比率を25%にして、電動化率は100%という目標を中期技術計画で明らかにしている。EU35年規制が決定事項となれば、このあたりも変更を余儀なくされるかもしれない。それでも同社はすでにトヨタグループに属しており、トヨタMIRAIFCスタックや高圧タンクなどの供給を受けてFCVを投入することも可能だろうし、バッテリーの供給もパナソニックトヨタの太いパイプが頼りになりそうだ。

 ただし自動車メーカーにとっては、この35年問題は喫緊の課題ではないのかもしれない。というのも、今課せられている21年規制をどう乗り越えるかで精一杯のところがほとんどであり、35年のことなど本腰を入れて考えられる余裕などない、という自動車メーカーは少なくないからだ。

 それでもEUとしては、これからの行く末を考えれば、環境規制を強化するしか策はない。ただし炭素排出量の少ない途上国に対しても、先進国と同じ規制を強いるのは、やや行き過ぎの感もある。再生可能エネルギーによるグリーン電力の普及が進まなければ、エンジン車の販売禁止が環境対策につながらない可能性もあるからだ。

 現在の排ガス規制もあまりにも厳し過ぎるため、クリアできるメーカーはトヨタテスラ以外存在しない状況となっており、罰金の減額を検討しているという情報もある。テスラのイーロン・マスクCEOはこれに対して断固反対しているようだが、炭素クレジット権がテスラにとって大きな収益源である以上、これは当然の行動だろう。

 ということは、35年のエンジン車販売禁止という

規制も、将来的には見直される可能性もある。そのためには水素エンジンバイオ燃料といった、エンジンでのカーボンニュートラルを実現して普及させる必要がある。バイオ燃料を用いたハイブリッドであれば、EVと比べてもLCA(ライフサイクル全体での評価)で低炭素とすることは十分に可能なのだ。



高根英幸  高根zzzkstakane_h100
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECHITmediaビジネスオンライン、ビジネス+ITMONOistResponseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める

 

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2107/27/news035.html

 

 

 

欧州委員会(EC)の発表は法案の政策文書であり、まだ法律にはなっていないものであるが、2035年以降にはBEVFCVしか新車登録を認めないというもので、見方を変えれば明らかにHEVの得意な日本車つぶしに他ならないという側面がある。ECとしては、ディーゼルゲートから立ち直るための域内の環境対策とEUの自動車メーカー擁護の一石二鳥の政策である。トヨタの得意なHEVに、ヨーロッパが席巻されたくないという思いが強い政策なのである。

 

いわゆる気候変動対策として聞こえはよいが、気候変動対策に名前を借りた域内の自動車保護政策の意向が強いものである。したかって、米中を巻き込んだ環境を盾にした「貿易戦争」が勃発する可能性すらあるものである。

(続く)