世界の流れは、EV化(83)

"水素"インフラが世界に浸透することが、水素燃料車普及の絶対条件

冒頭に記したとおり、トヨタカワサキヤマハが水素燃料のICE開発に励んでいたり、経産省2019年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定していたり・・・という事実から、官民ともに日本は"水素社会"実現に前のめりになっている・・・というイメージを持つ人は多いでしょう。

 

しかし、2017年に世界各国の大手企業が結集して「水素評議会」を設立し、各国の政府・業界・投資家のコラボレーションを促進させることに注力していることが示すとおり、アメリカ、イギリス、EU諸国、オーストラリア、中国、韓国など、カーボンニュートラル戦略のなかに水素技術を取り入れている国は多いです。

 

ハイドロジェンカウンシル=水素評議会は、201717日に開催されたダボス会議世界経済フォーラム)で発足しました。BMWダイムラー、ホンダ、トヨタカワサキ、シェル、トヨタ(通商)トタルエアバスマイクロソフトなどの運営グループ、NGKシェブロン、マーレ、コマツなどの賛助会員、そしてバークレイズやSMFG三井住友フィナンシャルグループ)などの投資家グループで構成され、世界20カ国以上の123の大企業がその名を連ねています。 hydrogencouncil.com

 

水素を燃料とする乗り物(ICEVFCV、航空機など)を作っても、当然のことながら世界各国に水素インフラが整備されない限りは、それら乗り物製品が世界市場で販売され、普及することはあり得ません。インフラの規模としては、現在のLNG液化天然ガス)のサプライチェーンくらいに、世界的に発展する必要がある・・・というイメージでしょうか? 

 

つまり、世界中に水素パイプラインが整備されたり、陸海路の水素輸送が確立されたり、水素発電や貯蔵プラントが世界中に建設されたり、世界各地に水素ステーション網が敷かれたり、一般家庭のオフグリッド電源として水素が活用されたり・・・と、それくらい水素が身近になることが、水素を燃料とする2&4を一般庶民が趣味として楽しむ環境作りの、最低条件になると思われます。

 

 

もっとも水素インフラが世界中に整備され、水素を燃料とする2&4を私たちが楽しめる未来が到来したとしても、その主役となるのはICEよりはるかに効率で優れるEV技術を取り入れたFCV燃料電池車)になるのでしょう。

 

 

水素の道・・・を意味する社名が与えられた「ハイヴィア」は、フランスのルノーとプラグパワー社が50/50の出資で設立した合弁会社です。今年6月の発足から、早くも年内のうちに3種類のFCVプロトタイプを公表。2022年からの欧州市場での販売を計画しています。 www.hyvia.eu

 

水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」というレポートでは、水素は今世紀半ばまでに最終エネルギー需要の1/5以上を提供し、累積80Gt(ギガトン)のCO2を低コストで削減することが可能な、1.5℃気候シナリオを達成するために不可欠なソリューションと説明しています。

 

また、今後10年間で再生可能な低炭素水素の世界需要は50%増加する可能性があり、2030年には、イギリス、フランス、ベルギーが排出するCO2の総量に相当するCO2排出量を削減することができる・・・ともレポートには記されています。

 

しかし、その"足がかり"を作るには、生産、インフラ、最終用途を今すぐ大幅に拡大する必要があり、官民による連携をより密接なものにして2030年までに投資を4倍! にする必要がある・・・ともレポートには記されています。つまり投資や資金援助の規模をこの10年の間、前倒し的に拡大することで水素のコストを低下させ、普及させていかないと2050の気候変動対策目標を達成することは難しいわけです。

 

もっと投資や資金援助を! というのは、大企業が集まって構成される水素評議会という組織の性質を考えれば当然の主張なのでしょうが、各国の政府、行政、そして市民ひとりひとりが、環境やエネルギーの問題としてシリアスに取り組まない限りは、水素技術の普及などあり得ないのも事実でしょう。その道のりは困難ですが、カーボンフリーへの方策として水素技術が発展することを期待したいですね。

 

さて・・・実現したら、もっぱら趣味の乗り物用途になるであろう水素燃料の2&4ICE市販車ですが、市販当初はガソリン燃料ICE車よりも割高になることが予想されます。エンジンやギアボックスなどに既存技術を応用することはできますが、ガソリンICE車と同じ航続性能を与えるとしたら単純計算で4倍の体積になるであろう燃料タンクのレイアウト、燃料系の水素脆性や気密保持の対策など、ガソリンICE車にはない設計・品質管理の難しさが水素燃料ICE車にはあるからです。

 

 

カワサキが開発中の水素燃料ICE車のイメージ。本車側の燃料タンクに加え、左右のパニアケースも燃料タンクとして使えば、水素燃料でもガソリンICE車並みの航続距離を現時点の技術で実現できるかもしれません・・・? (※冗談で書いています)。 www.kawasaki-motors.com

 

なお今のところ、水素燃料ICE車の開発を公表している大メーカーは、冒頭に記したトヨタカワサキヤマハという日本勢くらいです。その低効率ぶりやNOx対策問題などの課題を考えると、カーボンフリーへの本命テクノロジーにはならない分野ではありますが、ICEの鼓動感やサウンドといった魅力を将来の人々が楽しめるように、いつの日にか商品化されることを祈りたいです。

 

未来のカワサキH2シリーズは、H2(水素)で走る!? 「水素社会」の"""現実" !? - LAWRENCE - Motorcycle x Cars + α = Your Life.

 

"グリーン水素"の普及努力こそが、水素社会実現への最強の説得材料かも?

技術的困難さやコストの問題などのほか、水素社会実現の大きなハードルになるのは「世論」でしょう。EV業界をリードするテスラのイーロン・マスクが、水素自動車を「愚か」とクサしているというエピソードは有名ですが、彼の他にも水素社会という未来はない・・・と考える人は少なくないです。

 

また英国の超一流メディア、BBC126日の報道のように、日本の"水素社会"構想は天然ガスや石炭から取られた"ブルー水素"頼りであり、ブルー水素""である温室効果ガスの回収・貯留技術が未だ確率されていないことを不安視する声もあります。

「炭素の回収・貯留が伴う化石燃料の使用は、ただ化石燃料を使うよりも、必ず費用がかさむ。多くの国々で現在すでに、炭素を回収しない化石燃料よりも、再生可能電力の方が、値段が安くなっている」。
コーベリエル教授(※スウェーデンのチャルマース大学のトーマス・コーベリエル教授)は、再生可能エネルギーが高価だった10年前に、日本政府はブルー水素を選択したのだろうとみている。そして10年後の今、もはや合理性がなくなった計画から、抜け出せなくなっているのだろうと分析する。www.bbc.com

 

日本と石炭火力発電 「ブルー水素」が答えになるか? - BBCニュース

 

事実、水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」に記されているとおり、現在使われている水素のほとんどは化石由来の"グレー水素"です。今後カーボンニュートラルに水素が貢献するだろうという世論を形成するには、"グレー水素"の割合を減らしていくとともに、"ブルー水素"再生可能エネルギー由来の"グリーン水素"の割合を増加させていき、最終的には"グリーン水素"をメインにしていくという、理想的なロードマップどおりの道を進んでいくしかないでしょう。

 

H2サプライAASfYNA

 

水素評議会の「ハイドロジェン フォー ネット ゼロ」より。今後1015年の間に作られるのはブルー水素のプラントとなりますが、長期的にはグリーン水素が最も大きな供給源の座に着くと予想しています。 hydrogencouncil.com

 

上のグラフによると、2050年の再生可能エネルギーによる"グリーン水素"は、供給量の6080%・・・400550メガトンの水素を供給することになります。100%"グリーン水素"になった方がカーボンニュートラル的には良いと思われますが、"グリーン水素"だけの供給体制になるとサプライチェーンなどに問題が生じる可能性があるため、"ブルー水素"も相互補完的に残すのがベターということです。

 

2050年まで、あと28年くらいある・・・と考えるか、もう28年しかない・・・と考えるかは人それぞれでしょうが、人類の英知を結集してより良い世界を作っていくことを願いたいですね! 私たちが呑気かつ平和に、この先も2&4趣味を楽しんでいくためにも・・・。

 

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

 

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https://www.autoby.jp/_ct/17507695

 

 

 

この論考では、2050年には大半がグリーン水素となり、供給体制の問題からブルー水素もある程度は残らざるを得ないと論じている。そして今からの28年間(2022~2050年)で、世界的に水素のサプライチェーンが構築されて、水素社会となってゆくのではないか、と予想している。

(続く)