カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(83)

独立社外取締役がポイントに 

 

焦点となったのは独立社外取締役の〝独立性〟だった。 

 

独立社外取締役の候補としてトヨタが選任・提案したのは4人。その中の1人である大島眞彦氏が副会長を務める三井住友銀行は、トヨタの主要取引銀行の1つだ。 

 

大島氏を新任の社外取締役とすることには反対しない。だが、「独立していると言えない」とグラスルイスは判断した。 

 

大島氏を独立社外取締役にカウントしない場合、トヨタの取締役会は東証がプライム上場企業に求める独立社外役員が3分の1以上」の基準を満たさなくなる。 

 

「十分な数の独立した社外取締役がおらず、客観性や独立性、適切な監督を行う能力に深刻な懸念を抱く」。グラスルイスはそう指摘し、取締役会議長として責任を負う豊田会長の再任に反対すべきとした。 

 

グラスルイスは豊田会長の取締役再任に反対(AGAINST)することを推奨していた(画像はグラスルイスのリポートの一部)     

 

総会前には、アメリカ最大の公的年金基金であるカルパースカリフォルニア州職員退職年金基金)が、取締役候補10人のうち豊田会長や佐藤社長ら8人に反対票を投じたと公表していた。問題視したのは、やはり取締役会の独立性だ。 

 

カルパースは2000年代前半、企業統治の不備などでアメリカのウォルト・ディズニーに圧力をかけ、経営トップを追い詰めた経験を持つ「物言う機関投資家」として知られる。一方、その姿勢を「ドグマチック(独断的・独善的)」と評する市場関係者も少なくない。 

 

実は、カルパースは昨年も豊田会長をはじめトヨタの取締役候補9人のうち7人に反対票を投じていた。それを踏まえると、今年の賛成率低下は、グラスルイスによる反対推奨の影響が大きく出たと言えそうだ。 

 

運用会社が気候変動関連で株主提案 

 

今年のトヨタの総会でのもう1つの注目点は、欧州の機関投資家が行った株主提案だった。デンマークの年金基金AP、ノルウェーのストアブランド・アセット・マネジメント、オランダのAPGアセットマネジメントが共同提案していた。 

 

定款を変更し、「気候変動関連の渉外活動が及ぼす当社(トヨタ)への影響とパリ協定の目標との整合性に関する評価及び年次報告書の作成」などを規定に追加することを求めたのだ。 

 

この提案にグラスルイスは反対を推奨したのに対し、グラスルイスと並ぶ議決権行使助言会社ISSは賛成を推奨。カルパースも賛成票を投じていた。 

 

会社側は「このような課題に対し、(中略)柔軟かつ多様な経営判断を行い、(中略)速やかに実行していくことが求められます」「定款には(中略)規定せず、現行の定款を維持したい」と、株主提案への反対を表明していた。 

 

結局、株主提案への賛成率は15.06%にとどまり、否決された。 

 

定款変更には、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となる。取締役選任など過半数で成立する議案よりハードルは高い。提案することで環境問題への注目を集めることが目的だったと思われる。 

 

トヨタは総会を無事に乗り切ったが、多くの上場企業で株主総会が本格化するのはこれからだ。6月29日には東証上場(3月期決算)全体の26%に当たる595社で総会が開かれる。株主提案を受けた企業は90社にのぼり、過去最高だった昨年の77社を上回る。 

 

取締役会や社外取締役の独立性が厳しく問われるのは、もちろんトヨタだけではない。 

 

「これまではメインバンク出身の社外取締役には独立性がないと判断されてきた。今は主幹事証券会社や株式の持ち合い先の出身者も同様に独立性がないとみなす機関投資家が出てきている。株主側の判断基準は年々厳しくなっている」。大和総研の鈴木裕・主席研究員はそう指摘する。 

 

気候変動問題への姿勢が一般に問われる時代 

 

また気候変動に関するトヨタへの株主提案は、機関投資家が一般企業に対しても気候変動への取り組みをシビアに判断する時代が到来したことを示している。 

 

株主提案を行う主体は、これまで非政府組織(NGO)や環境団体が中心だった。電力卸のJ-POWER(電源開発)に対しては昨年、今年と2年連続でフランスのアムンディなど資産運用会社が株主提案を行っているが、同社はエネルギー関連企業だ。 

 

株主提案がされていないからといって安心はできない。グラスルイスは「取締役会レベルで気候変動に対する取り組みを監督する体制が整っていない」として、日産自動車内田誠社長の取締役再任に反対を推奨している。 

 

株価や業績の向上は当然。ガバナンス体制の整備や環境問題への取り組みも怠ってはならない。加えて、株主といかに対話していくか。経営に求められるものは増える一方だ。 

 

https://toyokeizai.net/articles/-/679400 

(続く)