カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(146)

トヨタグループで相次ぐ不祥事

2023年5月、トヨタの完全子会社であるダイハツの不祥事についてタイのバンコクで記者会見し謝罪するトヨタ自動車豊田章男会長 

 

 トヨタグループの不祥事が止まらない。トラック大手の日野自動車トヨタ自動車の源流となる企業であり、フォークリフトディーゼルエンジンなどを手がける豊田自動織機で排出ガスの規制適合で不正を行っていたことが発覚。トヨタ系列の販売会社でも車検不正が相次いで浮き彫りになった。 

 

 そして大型連休に突入する直前の4月末には、トヨタの完全子会社で軽自動車やアジア向け小型車を主力事業とするダイハツ工業が衝突安全審査を違法にパスしていたことが、内部告発により明るみに出た。 

 

 トヨタでは4月1日付けで社長の座をエンジニア出身の懐刀、佐藤恒治氏に譲り、自らは会長に就任した豊田章男が、連休明け早々、不正の対象車の主な生産・販売の拠点であるタイのバンコクで記者会見を行い、「不正はトヨタグループ全体の問題。自分が先頭に立って信頼回復に努める」と強調。 

 

 重要な収益源である東南アジアでのイメージダウンにつながりかねないだけに、自らのネームバリューを生かして事態の鎮静化を図る構えを見せた。 

 

 豊田氏は、14年前の社長就任直後に、米国で大規模リコール問題を起こして危機に直面したが、その時、米国の公聴会では「問題から逃げも隠れもしない」と誓って、率先して信頼の回復に全力を尽くした。今回の“謝罪会見”もそうした教訓から素早く対応したものと思われる。 

 

 そのタイでの会見でも豊田会長主導で早期の信頼回復を図る姿勢を示したが、その戦術は、グループ全体にトヨタのやり方をとことん浸透させるという狙いがあるようだ。 

日野自動車の小木曽社長    

 

 2022年3月、不正問題では“先輩格”の日野の小木曽聡社長は、大規模な排出ガス不正が発覚した緊急会見の席で、「トヨタには不正をしようとしてもできない仕組みがある」と述べて、これまで不正行為が取り沙汰されずにきた“水も漏らさぬチェック体制”とも類推されるトヨタ方式の導入を示唆する発言を行っている。 

 

 小木曽氏はトヨタハイブリッド車「アクア」などの開発責任者を務めたエンジニアで、日野に送り込まれてからもトヨタとの連携強化を打ち出しているが、再発防止に向けてのトヨタ流の導入は、小木曽氏の発案ではなく、“古巣”の意向とみるのが妥当であろう。 

 

トヨタグループに蔓延する事大主義 

 

就任早々、不祥事対応を経験することになった佐藤恒治新社長。今後の舵取りに注目だ    

 

 だが、トヨタ本体のやり方を関連企業にも行き渡らせるという戦術で、グループの緩んだタガを締め直すことはできるのだろうか 

 

 結論から先に述べると、会長主導でトヨタ流を徹底的に守らせれば、品質管理や法令順守などに関わる問題がすべて解決できるというような単純なものではない。傘下の企業で発覚した相次ぐ不祥事は、想像もつかないほどの根深いものがあるようにも見受けられるからだ。 

 

 トヨタの研究開発部門の要職を務めたあるOBは「一連の問題に関する情報をよく分析すると、どの不祥事もトヨタの言うことを聞かなかった結果起こったのではなく、語弊を恐れずに言えば、むしろトヨタの言うことを聞いたから起こったのだ」と指摘する。 

 

 つまり、グループ企業にとってはトヨタからの要求に応えることが最優先事項で、社内では、そのためには「何でもあり」という機運が生じていたのだという。 

(続く)