カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(149)

松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」 

トヨタ、章男社長の暴走…広報が競合他社に関する報道に介入、メディアに“説明”要求 

文=松岡久蔵/ジャーナリスト 2021.03.09 06:00 

トヨタ自動車豊田章男社長(写真:picture alliance/アフロ) 

 

「最近のトヨタは、日産やマツダなど競合他社の報道についても『ご説明』を求めてくるようになり、異常としかいいようがない」 

 

 トヨタ⾃動⾞の内情に詳しい全国紙ベテラン記者は、同社の広報担当者がマスコミに対する統制を強めていることをこう危惧する。従来からメディアを自社に都合のいいように操りたいという姿勢は示していたものの、今年に入ってから、さらにこの傾向は顕著になったという。 

 

見出しや記事内容が不満だと即座にしつこく電話攻撃 

 

 冒頭のベテラン記者によると、最近のトヨタ広報のクレームは、もはや「立派な業務妨害」のレベルに達しているという。 

 

トヨタ広報は、決算や各種発表の際、事前に新聞各社の担当記者に⾒出しやトーンなどを教えるよう電話で迫るのが常態化しています。これだけでも十分な『圧力』なのですが、ひどいのは実際に記事が配信されたり、掲載された時です。最近はどこのメディアも⾃社のホームページで当日に記事をアップしていますが、その見出しや内容が気に入らないと、即座に現場記者に『後ろ向きの記事ですね』『弊社の販売努⼒をなぜ取り上げないんですか?』などの嫌がらせの電話がかかってくる始末です。他の企業だと、どれだけ⾃社に批判的なことを書かれても後⽇嫌みを⾔ってくるくらいです。事実誤認でもないのに、こんなことは前代未聞で驚いています 

 

 

 本来、報道機関は、事前に報道する内容を教えてほしいなどという要求は断固拒否すべきだが、記者クラブの担当記者は軒並み、トヨタから出入り禁止にされたくないために真面目に電話に出て対応しているという。取材する側もポチ化して、報道機関としての矜持が失われていることも問題だ。 

 

「なぜ他社は批判しないのか?」と他社報道に⼝出し 

 

 さらに、このベテラン記者が⾔う通り、競合他社の報道についても「ご説明」を求める電話攻勢を始めたというから、異常さがさらに一段階上がったといわざるを得ない。この記者の弁。 

 

「例えば、日産は1月27日付で2030年代早期から主要市場で投入する新型車をすべて電動車両にするとプレスリリースしましたが、これについてトヨタ広報が記事を掲載・配信したメディアに対して、『なぜこのトーンや⾒出しになったのか教えてほしい』『なぜ⽇産の取り組みは肯定的に取り上げられるのか』などの『ご説明』を求めたわけです。リリース処理の性質の記事なので、淡々と事実を全社とも書いただけなのですが、2月に入ってからも同様の傾向は続き、マツダなど競合他社の報道についても『ご説明』を求め続けています」 

 

 自社に関する記事についての問い合わせなら、「ご説明」もまだ正当化できるかもしれないが、さすがに他社の報道にまで口出しをするのは、やりすぎだといわざるを得ない。 

 

イエスマンの新執行役員入りが報道圧力を強めた 

 

 トヨタのマスコミ統制がひどくなったのは1月1日付の人事が大いに関係しているという。 

 

 この執行役員人事では、師茂樹が外れたことで、トヨタを支えるはずの「7人の侍」が章男氏のほか、番頭の小林耕士氏のたった2人になってしまったことが関係者の間で話題になった。7人の侍というのは、18年2⽉に静岡県にあるトヨタ創業者の豊⽥喜⼀郎氏の再現された生家の仏間に集結し団結の⾎判状まで作成した章男⽒と6⼈の当時の副社⻑のことだ。たった3年で⾝内の⼩林⽒しかいなくなってしまい、「章男⽒のワガママっぷりが⼀層進む」(トヨタ担当記者)とみられている。 

 

 その象徴が、新執行役員に昇格した長田准渉外広報本部副本部長だ。広報を統括するチーフコミュニケーションオフィサー(CCO)という日本では聞きなれない役職に就任した長田氏は、社内では「取り立てて目立った業績はなく、章男氏へのヨイショだけでのし上がった」(トヨタ関係者)と評判は芳しくない。この長田氏が広報政策の責任者に就任してから、前述のような業務妨害としか思えないクレーム攻勢が激しさを増したことを考えると、「章男氏の意向を受けた長田氏が社内ヨイショのため、メディアに対する圧力を強めている」(全国紙経済部デスク)と思われる。 

(続く)