沿岸部の裕福な地域でさえ
私がこうした話題をいろいろと提供しても、「中国は広いからそういう苦しいところもあるんだろう」程度に思う人もいるだろう。だが中国の中で最も裕福な都市のはずの上海市でさえ、給与削減に動いているのだ。
上海の課長級の公務員の年間の給料は、すでに15万元(300万円)引き下げられている。上海市はさらなる給与削減を目下検討中ということだ。また、広東省や浙江省の公務員は25%の給与削減、江蘇省や福建省の公務員は20%の給与削減となったとも伝えられている。
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これらはいずれも沿岸部の裕福な地域のはずだが、そうした地域でも厳しい給与削減に動かざるをえないのだ。山東省でも2月から25〜35%の給与削減が行われるとの内部情報のリークが出て、話題になっている。
苦しいのは、公務員だけではない。2022年から2023年前半までに、中国の不動産業は26万人の人員整理を行った。デジタル産業の技術職の給料は前年比12%減少し、デザイン職は18%減少した。電気自動車、バッテリー、太陽光発電、風力発電などの新経済分野の給料でさえ、前年比2.3%も下落している。
中国48社の証券会社の2022年上半期の総人件費は前年に比べて11.3%、合計で100億元(2000億円)以上下落した。招商銀行は12月28日に、職員に一旦支払った業績報酬総額5824万元(12億円)を、会社側に戻させた。
上海の大銀行である上海浦東発展銀行では、給料が突然、従来の1/3に減らされたことに抗議して、銀行員たちが「ちゃんと給料を払え!」と訴える集団行動に出ている。
中国の労働争議は昨年は1900件を超え、2020年から2022年の3年間に起こった数をたった1年で抜いたという。このように、民間経済もすこぶる悪いのは間違いないのだ。
「全民降薪」(国民全員が給料削減)
中国では新年のお祝いは旧暦で行われる。今年の春節(旧暦の正月)は2月10日であり、本来であれば、この直前に都会から田舎への大移動が始まる。
もちろん今年もそういう動きは見られるだろうが、例年とは異なった動きになっていることが指摘されている。すでに11月頃から田舎に戻る動きが始まっているのである。都会で仕事を見つけようとしても、仕事が見つからないからだ。
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上海の復旦大学は中国でも有数の難関大学だが、去年の就職率がわずかに18%だったことが明らかになった。一昨年は、北京大学の原子核物理学の博士号取得の新卒者が北京市の城管(都市管理職員)に就職したことも話題になった。
城管は庶民いじめのヤクザな仕事という感じで、かなりイメージの悪い仕事だが、そんな仕事でも選り好みしないで選ばないと、スーパーエリートでもなかなか就職できないのだ。
こうした中で、「降薪潮」(給与削減ブーム)とか「全民降薪」(国民全員が給料削減)などという言葉まで現れている。
さらに驚くべきことに、軍隊に支払う給料まで削減されていることがわかった。中国の軍人には基本給の他に任務による様々な手当がつく。こうした手当は赴任先の現地政府の財政から出され、中央政府の国防予算からは支出されていないものが多い。地方政府の財政が苦しい中で、こうした軍人に対する手当の支払いも止まっているのだ。
また、人民解放軍の科学技術関連の研究所の研究職の給与、予算までもが大きく削減されていることが明らかになった。警察についても給料の削減が起きている。
このような状態で、国民の所得も消費も順調に増えて、GDPが年率5.2%成長するような経済になどなるわけがない。それどころか中国は今や体制の危機にも直結しかねない動きになり始めているのだ。
https://gendai.media/articles/-/122904
(続く)