ALPS処理水放出と習近平の凋落(69)

 銀座8丁目の寿司屋では、中国人カップルがカウンター席に案内されるや、眼前の板前に、「オ・オ・ト・ロ!」と言って、紙に「15」と書いて見せた。隣席の私がきょとんと見ていると、15貫並んだ壮大な「大トロ艦隊」の端の1貫を、彼氏がニッと歯を見せて私に分け与えてきた。 

 

 彼はその後、「ダサイ!」と言い放った。「何のこっちゃ?」という表情の板前さん。中国でもつとに知られた山口の銘酒「獺祭」(だっさい)を注文したかったのだ。結局、この中国人カップルは、50万円近い勘定を銀聯カードで平然と払った。 

 

 こんな思い出話、書き出したらキリがないのでもう止めるが、中国人観光客の「爆買い」たるや、げに恐るべし! 

 

 それが2024年の春節は、「爆買い」どころか、一気に「爆消え」と化した。すなわち東京各地に、中国人観光客自体が、ほとんど見当たらないのだ。 

 

爆買いが「爆消え」 

 

 ちなみに、国家観光局の統計を確かめると、2023年の外国人訪日客は、コロナ禍前の2019年に比べて78.6%の延べ2506万6100人。つまり約8割まで回復し、今年はコロナ禍前を超えようというところだ。 

 

 中でも、伝統的に多かった韓国の+24.6%、アメリカの+18.7%などばかりか、シンガポール+20.1%、ベトナム+15.9%、メキシコ+32.0%、中東+15.2%など、これまで比較的観光客が少なかった地域からも、着実に増えている。これは、マンガアニメなど、日本のコンテンツ文化の影響が大きいだろう。 

 

 そうした中で、中国だけが、2019年の959万4394人から、2023年の242万5000人へと、-74.7%! まさに「爆消え」の状態なのだ。 

 

日本人が想像する以上の不景気ぶり 

 

 別に日本政府が、中国人の観光ビザに特別の規制をかけているわけではない。最大の理由は、やはり中国国内の不景気だ。コロナ前には何度も東京に遊びに来ていた中国の国有企業勤務の友人に聞くと、こう答えた。給料3割カットで、春節に故郷へ帰るのも躊躇(ちゅうちょ)しているのに、日本旅行などできるものか!」 

 

 昨年12月11日と12日、北京で中央経済工作会議が開かれ、2024年の経済運営方針が示された。その中で習近平主席が強調したのが、「中国経済光明論」だった。簡単に言えば、「中国経済をもっと明るく表現せよ」ということだ。 

 

 爾来、ますますCCTV(中国中央広播電視総台)など官製メディアは「バラ色の中国経済」を喧伝するようになり、一部の(良心的な?)経済学者アナリストらは、口を噤(つぐ)むようになった 

 

 それでも、頭隠して尻隠さず。巨大化した中国経済には、覆い切れないものもある。例えば、株価だ。 

 

 上海総合指数は12月12日に、3003ポイントと、何とか3000ポイントの大台をキープしていた。だが、「中国経済光明論」が出されるや暴落を始め、12月20日には2902ポイントまで落ちた。その後、一時持ち直したが、今年2月5日には2702ポイントまで暴落した。 

 

 世界景気が悪いのではない。日本、アメリカ、韓国、台湾など、世界の株価は上昇している。中国の「一人負け」状態なのだ。2月7日には、中国の証券業務を統括する中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満(えき・かいまん)主席が突如、クビになってしまった。後任には、呉清(ご・せい)上海市党委副書記が就くという。 

 

売れ残り家屋の総床面積は東京23区以上 

 

 物価も同様だ。周知のように、日本のモノの価格は上がりっぱなしで、それはアメリカもヨーロッパも同様だ。だが中国だけは、今年1月の住民消費価格(CPI)が-0.8%。リーマンショック後以来、14年ぶりの下落率で、すでにデフレスパイラルが懸念され始めている。 

 

 不動産に至っては、惨憺たるものだ。昨年12月の70大中都市新築商品住宅販売価格は、前月比で下落したのが62都市に及んだ。中古住宅販売価格に至っては、70都市すべてが前月比で下落した。 

 

 不動産統計で「プラス成長」なのは、2023年末時点での商品家屋売れ残り面積くらいで、+19.0%の6億7295万m2。これは東京23区の面積(627.53km2=6億2753万m2)よりも広い! 

 

 こうした状況が2024年も続けば、来年の春節には、こんな一句になってしまうだろう。 

 

 でたさも小くらいなりおらが春 

 

『ふしぎな中国 』(近藤大介著、講談社現代新書)ギャラリーページへ 

 

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79333?page=1 

 

 

 

そうなると次に中国は何を考えてくるのであろうか。 

 

ただでさえ鬼の首をとたように、ALPS処理水に文句を声高につけている習近平であるからして、この民衆の不満を何らかの形で、外に向けてくることになる筈だ。 

 

それは「台湾統一」に向かわせることではないのか。近々ないとも限らないのではないのかな。 

(続く)