次世代エコカー・本命は?(19)

テスラの「18650」型リチウムイオン電池はノートパソコンに使われているパナソニック製のものだが、以前にはソニー製のリチウムイオン電池のノートパソコンの発火事件も報道されているし、これとは形も性能も違うがGSユアサ製のリチウムイオン電池B787最新型の旅客機にも使われ、発火事故が起こっている。しかしながらこの「モデルS」に(推定8,000個以上も)使われている「18650」型リチウムイオン電池は、それなりの歴史もありかなり安定した性能を発揮しているので、(注意するに越した事はないが)テスラもそれなりに気にして対策しており異常処理のプログラム組み込んでいるようなので、今後の経過を見守るより他はないだろう。

 

4)水素供給インフラの整備


燃料電池車の問題は、次の三つである、とトヨタは考えてFCVの開発に取り組んできたと推定する。

 

(1)FCVのコストと車両価格

(2)燃料電池セルの耐久性

(3)水素供給インフラ

 

(1)と(2)はトヨタサイドの問題であるが、(3)は社会インフラの問題である。トヨタだけではどうにもならない。(1)と(2)は何とか解決の目途がたったので、トヨタ燃料電池MIRAIミライの一般販売を2014.12.15に開始すると発表したものと思う。もちろん価格は相当無理をしたものであろうが、赤字を垂れ流すものからは相当改善したのであろう。そうでもしないと水素インフラの整備なんぞは遅れに遅れてしまいかねない、とトヨタは危惧していたに違いない。一年前の論考であるが、次の文を読んで頂きたい。

 

自動車考―3.燃料電池車―

2013/12/06 00:00

新 誠一=電気通信大学教授

 

 自動車考3回目、ずぼらな私も一応、執筆予定を立てている。今回は予定を破って燃料電池車である。

 予定を守れなかったのは、日本経済新聞1121日付朝刊に出た、トヨタ自動車2015年に向けて中国でハイブリッド車の開発を支援するという記事のせいである(日経電子版の会員向け関連記事「トヨタ、中国でハイブリッド車共同開発 現地大手2社と」を参照)。同種の報道は我がTech-On!でも既に本年4月にされている(関連記事1)。触発されたのは、前日のTech-On!にトヨタ自動車燃料電池車を2015年に発売へという「43回東京モーターショー2013」がらみの報道があったせいである(関連記事2)。

 トヨタ自動車は常々、燃料電池車を本命扱いにしてきた。値段、燃料電池セルの耐久性、水素供給インフラなどに問題があるため、ホンダ、日産自動車とともにリース販売に留めているというのが現状である。付け加えれば、リースでも販売しているのは国内のこの3社だけである。このような状況で2015年の燃料電池車販売を宣言したのは、先に挙げた三つの課題の解決が見えてきたからである。トヨタ自動車は本気である。もちろん、ホンダも2015年販売を宣言している。

 さて、これを踏まえるとトヨタ自動車ハイブリッド車用部品の中国生産という日本経済新聞の記事は興味深い。遊星ギアを使う「THS(Toyota Hybrid System)」の重要性が下がったと読める。ご承知のように、この部分の生産や開発はトヨタ自動車の戦略的技術であり国内に留めていた。つまり、軸足をハイブリッドから燃料電池に移した。これが、一連の記事から読み取れる。大事である。世界最大の1000万台規模の生産台数を誇るトヨタ自動車が軸足を移したのである。世界が変わる。

水素時代を象徴する乗り物の姿とは

 ここまでは記事の読み方教室。本題の燃料電池車である。現在、リース販売されている3社のものは、「クルーガー」の改造、「CR-V」の改造、「X-TRAIL」の改造である。いずれもガソリン・エンジンを降ろして燃料電池に換装したものである。外見はガソリン車で、燃料電池車と言われても区別がつかない。

 石油から水素への燃料転換を石炭から石油への転換に例えれば、蒸気機関車のボイラーをガソリン・エンジンに換装したようなものである。確かに、電化がされていない区間ではディーゼル・エンジンを搭載した気動車が活躍しているが、これを誰も自動車とは呼ばない。内燃機関の軽さはレールを不要にした。だから、蒸気機関車の「駅から駅へ」の輸送から自動車による「ドアからドアへ」の輸送に変化した。JR貨物が衰退し、宅配便が隆興した。その意味で、ガソリン車の外観をまとった燃料電池水素の時代の象徴とはいえない。

 水素を燃料とする燃料電池は排気ガスが水分だけである。しかも、振動、音ともに静かである。だから、水素の時代を象徴する乗り物はダウンサイジング。電動車や電動車椅子のイメージに近い。「ドアを越えて、部屋から部屋へ」が水素時代、燃料電池の時代の乗り物である。

 以上は、最近の思い付きではない。このコラムのトップに挙げた著書の一つ『図解 カーエレクトロニクス最前線―ロボット化するハイテク自動車 』(Amazonの書籍案内ページ)で予想した未来である。だから、あえて予定を変更した。過去の予想は時間が評価してくれる。何が当たり、何が外れるか。楽しくもあり、怖くもある。興味の種は尽きない。


コメント

tidex21
文字通り水素カーに水を差す訳ではありませんが...FCEVです、違いは電気を外部から蓄電するか、車内で水素から発電するかの違いだけです。EVで現在唯一の勝ち組と言えるTeslaを見ても現在の車の範疇で美しいボディをまとっており、異質な形のLeafは一部のマニアにしか売れていません。この意味でトヨタFCコンセプトもとても売れる車には見えません。加えて言えばFCには触媒として白金が必須であり、量販車に広く採用できるほどの供給量と価格の実現は将来的にも無理でしょう。FCは正に小さな発電所であり、1日に数時間も走行しない一般車に搭載するのは資源の大きな無駄遣いです。バスや定期便トラックの様な稼働率の高い車にしか可能性はないと思います。脱化石燃料として水素に拘るならば水素ガスを燃焼させるエンジンの方が理に叶っています。ロータリーエンジンは水素ガスでも回せる筈ですし、それを駆動源ではなく発電機とすれば最適燃焼効率域での稼動ができますし、水素ガス燃料によるEVができます。FCの劇的なコストダウンを目指すくらいなら、EVへの走行中の外部給電に開発費を投じた方が早く安上がりだろうと思います。FCは据え置きの常時発電用途と考えるべきです。
のぼ
THSを海外に出すのは、基本特許が切れたからでは?
FCV
は現状で見果てぬ夢であり、実現はあと10年以上はかかるように見えます。
まさ
本命になるかどうかは世の中を変えることができるプレーヤーが何を本命にしたいかで変わる。
トヨタに加え、ボッシュもFCVを本命としている。トヨタボッシュその気になれば世界が動かないはずはない。FCVが本命なのは世界的な動きである。EVは衰退していくだろう。
熟年ドライバー
トヨタは軸足は移してないと思う。単に軸を増やし多角経営の裾野を広げただけである。トヨタFCVHEVの技術の延長上にあり、今のガソリンエンジン燃料電池に置き換えたと考える方が近いと思います。
水素スタンド普及次第ではあるが、まだ数十年先のことだと思う、トラック、バスなどのFCV化が先ではないかと私は思う。 

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20131204/320425/?ST=AT&P=1

(続く)