カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(118)

注目されるのは
いすゞの動き 

 

 今回の発表で注目されるのは、やはり、いすゞの動きであろう。 

 

 いすゞは、1970年代の自動車資本自由化の波に対応してGM資本提携(1971年)を結んで以来、GMグループにあった。ところが、2000年代に入ってGMの業績悪化により、資本提携を解消。2006年にトヨタ資本提携して、GMからトヨタの傘下に乗り換えたという経緯がある。 

 

 しかし、当時のトヨタ側の提携目的は、乗用車の環境対策を踏まえたもので、いすゞディーゼルエンジン技術の活用だった。その後、世の中の環境対策の主流はディーゼルエンジンよりも、電動車化に取って代わられた。このため両社のディーゼルエンジン事業については、具体的な進展がなかったことで、2018年に資本関係を解消していたのだ。 

 

 いすゞは、これとともにスウェーデンボルボトラックとの提携に進み、ボルボトラック傘下のUDトラックス(旧日産ディーゼル)を買収、6月までに経営統合することになっている。それがなぜ、トヨタと再び資本提携し、トヨタ子会社の日野とともに3社で連携するのか。 

 

 実は、商用車といっても大型・中型トラック領域と小型トラック領域があり、用途やユーザー層がそれぞれ異なる。いすゞ大型トラックでボルボと提携して協業を深める一方で、小型トラックやピックアップトラックトヨタ・日野と連携していくことでCASE対応、カーボンニュートラル対応を選んだということであろう。 

 

 もともと、いすゞと日野は生い立ちが一緒であり、バス事業では共同・協業ジェイ・バス)しているが、トラック領域ではライバル関係にある。今回、物流部門のCASE革新をトヨタグループとして活用することが得策と判断し、いすゞ生き残りのために決断したということだろう。 

 

豊田章男トヨタ社長が語る
提携の意義 

 

 24日の3社のトップ会見で、豊田章男トヨタ社長は「3社が手を組む意義」として「トヨタはグループとして乗用車ではダイハツと連携しているが、商用車では日野が独自事業を展開してきた。だが、商用車もCASE革命で特に電動車化はインフラとセットで進めなければならないし、メーカー目線からユーザー目線でCASE技術を磨いて実装させていくことが求められている。いすゞと日野を合わせると8割の商用車ユーザー対応となり、競争プラス協調でモビリティ社会の実現を図れることになる」と強調した。 

 

 片山いすゞ社長は「社長に就任して6年目となるが、社会のためのイノベーション・CASE対応は待ったなし。グリーン成長戦略は全産業のイノベーションが必要だが、商用車メーカーとしての責任を果たしていかねば。ボルボやカミンズとの提携とともに、トヨタ・日野との協業はもっと物流を良くしたいとの思いがあり、トヨタイノベーションを活用して最大のライバルの日野と協調していくことになった」と述べた。 

 

 下日野社長も「いすゞとはライバル関係を超えて協調していく。今や物流の課題としてドライバー不足、輸送効率化、カーボンニュートラルが挙げられ、国内6万社を超える物流事業者が苦しんでいる。使い勝手の良い電動車普及は輸送効率向上につなげていくには、個社を超えた協調領域が求められる」と、物流業界がコロナ禍にあって直面する課題への対応には競争とともに協調が必要であることを主張した。 

 

 3社が設立する「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー」はトヨタ80%・いすゞ10%・日野10%の出資で、トヨタ中嶋裕樹CVカンパニープレジデントが代表取締役社長に就任する。トヨタが主導する形となるが、これも豊田章男社長による「日本自動車工業会を中心とする日本の自動車業界全体がカーボンニュートラルなどの課題に取組んでいく必要がある」ことの表れであり、社名からもわかる。 

 

 豊田章男トヨタ社長は、自工会会長でもあり、今回の動きも「片山いすゞ社長は自工会副会長、下日野社長は自工会大型車特別委員会委員長でもあり、物流業界の課題・社会対応へ手を組むことになった」こともあえて会見で語った。 

 

 これにより、乗用車では子会社のダイハツと、スバル、マツダ、スズキがトヨタグループとなる一方で、商用車も子会社の日野に加え、UDトラックスを統合するいすゞトヨタグループ入りし、「日本自動車軍団」が形成されることになった。 

 

いすゞ
「旧自動車ご三家」と言われた名門 

 

 今回、再度トヨタ資本提携に踏み切ったいすゞは、1916年創業で日本自動車メーカー最古の歴史を持ち、「旧自動ご三家」と言われた名門だ。 

 

 1971年から35年にわたった米GMとの資本関係を解消した後、トヨタ資本提携したことについて、当時のいすゞのトップから「GMという大きな傘がなくなった以上、どこかと組まなければ生き残れない」と聞いたことがある。 

 

 もっとも、2006年にトヨタいすゞ5.89%を出資した資本提携は、先述したように、トヨタいすゞディーゼルエンジン技術を欲しかったためであった。その後、両社の連携は解消、いすゞトヨタグループと距離を置いたかに見えたが、トヨタのEVプロジェクトとしてのEV共同技術開発合弁会社「EVCAS」(20年6月に解散)にいすゞが参画した流れもある。 

 

 つまり、いすゞトヨタとの資本提携は解消したものの、技術開発での協業面で「付かず離れずの関係」を維持していたわけだ。 

 

 一方で、大型トラック部門でスウェーデンボルボトラックとの提携を19年に締結するとともに、国内の大型トラック専業のUDトラックスの買収を決めている。これにより、6月までにいすゞUDトラックスは統合する予定となっている。 

 

 いすゞは、GMとの長期提携の中でGMグループの中・大型トラックと小型トラックに、いすゞでいうLCV(ピックアップトラックおよび派生車)でディーゼルエンジン技術を磨いてきた。 

 

 GMとの資本提携解消後も、GMには技術供給を続けてきたが、大型トラック領域ではボルボとの提携を生かし、小型トラック・LCVの電動化を中心とする。そして、CASE対応では、トヨタ・日野連合と連携・協業する戦略を使い分けていく、ということになる。 

 

商用車の電動車化も
「待ったなし」の状態 

 

 商用車の電動車化については、菅政権のカーボンニュートラル実現宣言に対応して、乗用車は30年代半ばまでに電動車に切り替えるという目標に続き、6月までに決まる見通しとなっている。 

 

 商用車の電動化も待ったなしとなっているが、商用車は航続距離や車体重量と積載効率という面から乗用車のような電動化は難しいとされてきた。いすゞは小型トラック部門でエルフに代表される小型トラックとともに、タイで高い販売シェアを持つピックアップトラックが収益源でもあり、この領域でトヨタのCASE技術活用をもくろむ。事実、会見でもトヨタ自動運転EV「eパレット」に高い関心を寄せる発言を示していた。 

 

 一方で、大型トラック領域では、長距離輸送や重量積載という観点からEVは厳しいものがあり、FCVでホンダと提携して共同開発を進めて21年中に性能評価の実施を予定している。また、米エンジン大手のカミンズ社との提携も、カミンズが燃料電池企業を買収しており、連携していくことにしている。 

 

 このように、いすゞは、今回のトヨタとの再資本提携だけでなく、ボルボカミンズホンダとの連携をそれぞれの領域事業で活用する多面的な提携を積極的に進める。こうした一連の策により、商用車メーカーとしての生き残りを目指していくということであろう。 

 

(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫) 


https://diamond.jp/articles/-/266597 

 

 

 

この時はまだ日野の不正発覚前なので、日野といすゞの統合が前提であったわけであるが、現在は日野自動車はCJPTからも除名されいすゞとの統合話は立ち消えている。 

(続く)