カーボンゼロ、クルマの未来はどうなる?(111)

マルチパスウェイプラットフォームとは? 

他に類のない異形水素タンクに注目集まる 

 

 まずは、トヨタテクニカルワークショップ2023から振り返る。 

 

 朝10時から夕方6時まで、各種の実車を運転したり、同乗走行したり、また次世代の全固体電池の実物を見たりと、メディア側の予想をはるかに超える盛りだくさんの情報が提供された。 

 

 その模様はすでに、多くのメディアがさまざまな観点から記事化している。 

 

 また、トヨタの企業ホームページでも、同日の模様として、トヨタの技術開発を統括するCTO(最高技術責任者)で副社長の中嶋裕樹氏次世代バッテリーEV戦略/BEVファクトリープレジデントの加藤武郎氏、そして水素事業戦略/水素ファクトリープレジデントの山形光正氏のプレゼンテーションが動画サイトを介して紹介されているところだ。 

 

トヨタテクニカルワークショップ2023」で初公開された、水電解による水素製造装置の技術展示 写真提供=トヨタ自動車    

 

 燃料電池の主要構成品である、トヨタがいう第三世代のFCスタックや、さまざまな形状をした水素タンクの画像については残念ながら未公開としている。取材当日も東富士研究所内での撮影は一切禁止されていた。 

 

 水素タンクについて開発担当者は「これまで水素タンクといえば円筒型が当たり前だったが、マルチパスウェイプラットフォームでの活用を前提とすれば、こうしたドライブシャフトをまたぐ鞍型の発想が出てくるのは当然だ」と指摘した。 

 

 マルチパスウェイプラットフォームとは、「多様な電動車の提供を可能にするプラットフォーム」と、トヨタは定義している。 

 

 現実的には、トヨタが量産しているTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)をベースとして、ハイブリッド車プラグインハイブリッド車に加えて、BEV化や水素を使用する乗用車への転用を可能とする考え方だ。 

 

 トヨタとして、燃料電池車の多様性と水素燃料車の量産に向けた“技術の弾込め”が着実に進んでいることを、筆者は同テクニカルワークショップで実感した。 

 

会見でもFCVは商用優先を強調 

乗用では水素燃料車が先行する可能性も 

 

 同テクニカルワークショップでの取材や記事化を通じて、メディアの中ではトヨタ水素戦略について改めて疑問や質問が出てきた。 

 

 これに対応するため、7月中旬にオンラインで中嶋副社長や山形水素ファクトリープレジデントらが参加したメディア向けラウンドミーティングが行われた。 

 

 26年から量産予定の第三世代のFCスタックを搭載する車両は、30年時点で主に商用車となる。その比率としては、大型トラックが多く、商用バンも含まれ、さらに一部乗用車にも適合するとした。 

 

実用化されている都バスのFCバス。都内にて Photo by K.M.© ダイヤモンド・オンライン     

 

 FCVの普及については、30年時点で見ると、まず国や地域での施策による規制やインセンティブ補助金や税制優遇措置など)を強化する中国と欧州燃料電池車市場の創出における「ペースメーカーになる」(中嶋副社長)という見解を改めて示した。 

 

 要するに、商用車の需要増によって、水素の価格とFCVに関するFCスタックや水素タンクを含めた車両コストを下げることが、FCV市場拡大の基本ということである。 

 

 さらに水素使用の効率と航続距離のバランスが良い大型トラックに対応して、水素ステーションを数が増えることで、乗用FCVの需要も段階的に増えてくるものと推測している。 

 

 トヨタの技術的な強みとして、第三世代のFCセルの通常版と、そのハーフサイズ版を同じ生産ラインで製造する技術を確立しつつある点を強調した。 

 

 これによって、乗用FCVを含めた多様な量産車へのコスト対応力が上がると見込む。 

 

 また、同じく水素を燃料とする、エンジン(内燃機関)を使う水素燃料車については「ボリューム(量産台数)は別に、ある地域に市場投入を前提に開発している」(中嶋副社長)という事業計画を初めて明らかにした。 

 

 実際、同テクニカルワークショップでは、筆者はレクサス「LX」ベースの水素燃料試験車を運転したが、エンジン回転数が毎分1000回転から2500回転の低回転域では、若干のトルク不足を感じたものの、日頃の運転シーンを考えるとかなり量産に近いと感じた。 

 

 試乗に同席した開発者は「エンジン内で発生する水の処理に関する課題の解決策が見えてきている段階」と量産に向けた前向きな発言が印象的だった。 

 

 いずれにしても、水素を商用車や乗用車で広く使うためには、国や地域の社会状況に応じた水素製造方法や、水素の運搬方法などを含めた総括的なエネルギー政策を、産官学で連携して進める必要があることは、これまでと変わりはない。 

 

 

 いまだ水素関連市場の全容がはっきりとは見えてこない中、トヨタとしてはまずは自社努力による次世代開発を最優先しながら、市場を創造していく構えだ。 

 

 BEVについては、トヨタの生産台数として30年には年間350万台を目標に定めている一方で、FCVでは30年に向けてパートナー企業向けの外販で年間10万台と市場規模はかなり小さい 

 

 年間10万台のうち、5万台程度が小型商用車乗用車4万台程度が大型トラック、そして産業用などが1万台程度としているが、乗用車の割合はかなり小さいと表現している。 

 

 そのため、乗用FCVの普及は、少なくともトヨタに関しては、大型トラックと小型商用車によるFC関連部品の量産効果がはっきりと見えてくる2030年代以降になることが予想される。 

 

https://diamond.jp/articles/-/326337 

(続く)