ALPS処理水放出と習近平の凋落(56)

注目の「中国経済光明論」 

 

こうした中で、会議が打ち出した来年の経済運営の方針、あるいは「経済救助策」のうち、一つ大変注目されるものがあった。それは、「経済宣伝を強化し世論を導き、中国経済光明論(楽観論)を高らかに唱えよう」、というものである。このような「経済運営の方針」が中央会議によって打ち出されたのは前代未聞のことだから、中国国内では大変な注目を集め、一部のメディアはそれを関連ニュースのタイトルにもしている。 

 

今まで、隠蔽や粉飾を常套手段とする「宣伝工作」というのは、中国共産党政権が慣用する「伝家の宝刀」であるが、それが「経済措置」として使われるのは初めてのこと。しかしそれは裏返しで言えば要するに、今の習近平政権が「宣伝工作」「世論工作」を展開していく以外に、中国経済を救助するための有効なる措置をもはや何も打ち出せな。それこそは中国経済が救いのない絶望的な状況に陥っていることの証拠である。 

 

 

上述の前代未聞の「経済方針」に従って、中国の国内メデイアは早速、「中国経済光明論を唱えよう」との宣伝キャンーペンを開始、ネット上でも「光明論一色」の世界が出現しているが、彼らは今後おそらく、「経済宣伝=粉飾工作」を行い、深刻な経済状況を覆い隠して嘘八百の「中国経済楽観論」を唱えていくこととなろうが、経済の実態と国民の実感からあまりにもかけ離れる「経済宣伝」は経済状況の改善にどれほどつながるのかが全く疑問。 

 

国家統計局が「数字の解釈良くする」? 

 

こうした中で、12月13日、国家統計局は康義局長の主宰下で、「中央経済工作会議の精神を伝達・学習する会議」を開いた。その中で康局長は「全局員が思想・行動の両面において習近平総書記と党中央との高度なる一致を保たなければならない」と訓示した上で、「数字の公布と解釈を良くし、社会の予測と期待を正しく導く」ことを、統計局の今後の「工作方針」として発表した。 

 

そしてそれはまた、国内では大変注目を集めて一部のネットニュースのタイトルにもなっているが、よく考えてみれば、本来、経済運営の職能担当部門ではなく、数字の統計を専門とする統計局が、経済救助策を打ち出した「中央経済工作会議の精神を学習する」こと自体はそもそもおかしい話であろう。その上で、局長によって示された「数字の公布と解読を良くし、社会の予測と期待を正しく導く」はさらに怪しい。 

 

「数字の公布と解釈を良くする」というのは、要するに統計局が肝心の「数字の統計」よりも「数字の公布と解釈」に主眼を置き、それらを「良くする」ことによって、中国経済に対する「社会の予測と期待を正しく導く」としている。だが、ここでの「正しく導く」は今の中国では要するに、政権あるいは政府の望む方向へと導くとの意味であり、まさに「中央経済工作会議」が打ち出した、「経済宣伝を強化し世論を導き、中国経済光明論を称えよう」との方針に合致しているのである。 

 

つまり国家統計局はここで、今後は中央の「経済宣伝」に呼応して、国内世論を「経済光明論」へと導くための「数字の公布と解読」を行っていくことを宣言している。それは理解するようによってはまさに「嘘の数字の偽造宣言」そのものであろう。「世論」を「中国経済光明論」へと「正しく導く」ためには、国家統計局は今後、嘘の数字でも平気で発表していくことを自ら示唆しているのである。 

 

中国の国家統計局今まではずっと「数字偽造の常習犯」ではあるが、今回のように、遠回しの言い方でありながらも堂々と「数字捏造宣言」を出したのは初めてのこと。今後、その数字偽造はおそらく、より一層のやりたい放題となるのであろう。 

 

「中国衰退」と言えば秘密警察が取り締まられる 

 

そして統計局と並んで、本来、国家の経済運営とは全く無関係の国家安全部(秘密警察組織)も動いた。12月15日、国家安全部はその公式アカウントで「経済安全を守る壁を築こう」という論評を掲載。「中央経済工作会議の精神」を受けて、国家安全部としては「全力をあげて中国経済の安全を守る」ことを誓った。 

 

その中で国家安全部は、「中国経済をおとしめるさまざまな常とう句が後を絶たない。その本質は『中国衰退』という虚偽の言説を作り上げ、中国の特色ある社会主義体制を攻撃し続けることにある」として、国家安全部としては今後、こうした論調を「国家の経済安全を危害するもの」として徹底的に取り締まることを宣言している。 

 

つまり国家安全部はここで、「経済宣伝を強化し世論を導き、中国経済光明論を称えよう」という中央経済工作会議の方針に従って、それに反する中国経済衰退論」を秘密警察の力で封じ込めていくことを宣しているが、今後、中国国内ではおそらく、中国の経済状況に対して否定的意見を呈する全ての言論はその取締りの対象となり、「中国経済光明論」だけは許されるのであろう。 

 

こうしてみると、習近平政権が考えている今後の「中国経済救助策」の全容が何となく分かってくるのである。つまり、宣伝部門を総動員して「中国経済光明論」を唱えながら、統計局を動員して「光明論」を支持する嘘の数字を乱発する。その一方においては、秘密警察を動員して「光明論」に反する声を徹底的に封じ込める。これで中国経済はまさに「前途光明」であって薔薇色の一色となっていくのである。 

 

つまり今後、中国経済の成長を背負って「支える」のはまさに習近平政権ならではの「三種の神器」、中央宣伝部、国家統計局、そして国家安全部なのであるが、このような「経済振興策」の下では、中国経済は崩壊しない方がおかしいであろう 

 

https://gendai.media/articles/-/120986 

 

 

 

中国経済は「中国経済光明論」の下で、崩壊してゆくのであろう、とこの論考は結んでいる。 

(続く)